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十四品目 マリモン族の壺漬け

 秋も半ばになると、村では収穫祭の準備が始まる。

 ヒッソス樹海はこの時季、天候が安定していて、過ごしやすい。


 ランドルも明日の収穫祭のために肉焼き機の準備をしていた。

 キャシーがランドルの近くを通りかかった。明るい顔で声を懸けてくる。


「収穫祭の季節を無事に迎えることができましたね」

「明日からお祭りや。明後日の夜が本番やから、大将も仕込みに大忙しやろう」


「ええ、今年はマリモン族の人にも料理を食べてもらうんだって、はりきっています」


 樹海にはマリモン族と呼ばれる全身が緑色の人型種族が住んでいた。マリモン族は普段は樹海の奥にいる。だが、収穫祭の日だけブレイブ村に姿を現して交易していく。


 交易品は壺漬け。臭いはきついが、中の肉で出汁を取ると、絶品のスープができる。

「マリモン族は味付け濃い目やからなあ。わいの好みと違うのが残念やな」


「味覚は種族それぞれですからね」

 明後日になる。村では屋台が出て、祭りが開かれる。


 ランドルは朝から肉焼き機で七面鳥を焼く係だった。

 昼過ぎになると、誰かが叫ぶ。


「お客さんが到着したぞー」

 広場に身長百四十㎝ほどで全身緑色のマリモン族が現れる。


 マリモン族は緑色の髪と髭を、ぼうぼうに伸ばしていた。服装は革のパンツとシャツ。それに革の靴を履いている。


 他には木でできた装飾品を身に付けていた。また、誰しも、背中に大きな壺を背負っていた。


 村人たちが陽気に語り合う。

「今年もこの時季が来たな。マリモン族の壺漬けの季節だ」


「おれも、マリモン族の壺漬けで作ったスープは大好きなんだよな」

 村で予め用意していた品と、壺漬けの交換が行われる。


 交換会はスムーズに行き、夜の宴席となった。

 宴席はハンター・ギルドが主催して、マリモン族を持て成す。


 マリモン族はお礼に、樹海で困っているハンターを見つけたら助ける。

 ハンターとマリモン族は持ちつ持たれつの関係だった。


 ランドルは焼けた七面鳥の肉を持って客人の席を回る。

 最初はマリモン族の酋長とエイドリアンの席からになる。


 二人は熱心に情報交換をしていた。マリモン族の酋長が厳かな顔で告げる。

「――とまあ、今、樹海で異変が起ききつつある」


 エイドリアンを真剣な顔で応じる。

「樹海でそんなことが? もっと詳細に樹海を調べなければいけませんな」


「このように樹海が騒がしくなる時は、新たな魔獣や魔鳥や竜が生まれる。ハンター殿も気を付けなされ」


「どのような脅威が生まれるかは、全く未知数ですからな。いや、情報提供はありがたい」

(何か、難しい話をしとるのう、わいは給仕やから関係ないけど)


 ランドルは、その後も各要人の席を回って七面鳥を切り分けて回った。

 マリモン族は祭りの三日目の昼には、交易の品を持って帰って行った。


 村では後片付けが行われる。

 収穫祭の余韻が抜けた二日後のことだった。


 ランドルが朝の体操をしていると、途端に空が曇ってきた。

(何や? 雲の動きがこれまでにないくらい速い)


 不審に思っていると、大粒の雨が降る。雨はすぐに(ひょう)に変わった。

 ランドルは家の中に逃げた。


 雹はその後、一時間に亘って降り続く。雷も鳴り、落雷があった。

(ハントに出ておる連中もこれは堪らんやろうな)


 雹は止んだが、雨は夕方まで降り続いた。

 夕方に雨が止んだので、山海亭に行く。


「今日の午前中は天気の荒れが(ひど)かったな。今年一番の荒天やで」

 キャシーが冴えない顔で相槌を打つ。


「異常なほど荒れていましたね。不吉な事件の前触れでないといいんですけど」

「不吉な事件なんて起きんやろう。ちいとばかり天気が荒れただけや」


 キャシーの顔は曇っていた。

「よく言うでしょう。大荒れの天気の後には凶鳥が出るって」


 ブレイブ村には「天が荒れ世界の終わりが近づく時に、樹海に真っ赤な凶鳥が現れる」との伝説があった。


「そんなの、迷信や。ハンターとして長年やってきたけど、凶鳥なんて見た覚えがない。それよか、飯や。今日は何があるん?」


 大将が申し訳ない顔で詫びる。

「今日は大荒れの天気で、市場が休みでした。お出しできるものが限られます」


「ええわ。今日はお任せや。大将に一任する」

 しばらくすると、ジャガイモ、キャベツ、人参、厚切り肉が入ったポトフが出てきた。


「おっ、これは、マリモン族の壺漬けの肉でスープを取ったポトフか?」

「はい。さっそく使ってみました」


 一口、スープを掬う。濃厚な肉の味が口一杯に広がる。


「マリモン族のスープは美味いのう。この、味を主張せん、ジャガイモとキャベツの組み合わせが、またええ」


 店の戸が開いて、常連が入ってくる。

「何だい、ランドルさん。今日はポトフかい。ランドルさんとポトフって珍しい組み合わせだね」


「ええから、食うてみい。美味いでこのポトフ」

 常連は感じの良い顔で注文を決めた。


「なら、今日はポトフにしよう」

 荒天の三日後、ランドルはハンター・ギルドに用があったので顔を出す。


 ハンターたちが険しい顔で噂していた。

「聞いたか、あの嵐の日に真っ赤な大きな鳥が樹海の上空を飛んでいた話」


「聞いたぞ。噂に聞く赤い凶鳥かも、って話だぞ」

(何や、気になる話やなあ)


 気になったので、ブリトニーに訊く。

「ブリトニーはん。凶鳥が出たって話、何か知っとる?」


 ブリトニーは浮かない顔で教えてくれた。


「話題の凶鳥ですね。嵐の日に樹海深度五に降り立ったハンターから報告がありました。真っ赤な大きな鳥の目撃例が伝わってきています。でも、赤い鳥が凶鳥かどうかはわかりません」


「村の衆が不安がっておるけど、大丈夫なん?」

 ブリトニーが心配顔で教えてくれた。


「鳥の正体が何かわからないので、何とも言えません。ですが、鳥はブレイブ村とは反対側にある荒野に飛び去ったのが、確認できています」


「村と反対方向か。なら、とりあえずは安全やな。ありがとう」

 ランドルがブリトニーから話を聞いた翌日だった。


 エイドリアンの名前で荒野に調査隊が出る、とハンター・ギルドで発表があった。


(調査隊が出るんか、わいはパスやな。エイドリアン先輩が行くのなら問題ないやろう。凶鳥の調査は、エイドリアン先輩に任せよう)

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