十三品目 目立ち魚(後編)
三日目、またも最後尾の牛車が襲われた。
大王牛と御者は無事だったが、目立ち魚はそっくり食われた。
御者と大王牛を回収して浜でホークと話す。
ホークはむすっとした顔で怒っていた。
「完全にちょろい奴らだと思って、馬鹿にされとるのう」
「それも、明日までや。明日は最後尾の目立ち魚に眠り薬を仕込む。そんで眠ったところで麻酔薬を嗅がせて、捕獲するで」
「ランドルさん、期待しているぜ」
四日目、目立ち魚が獲れた。
手筈通りに最後尾の牛車の目立ち魚にのみ睡眠薬を仕込む。
最後尾の三番牛車は距離を空けてランドルたち九人のハンターで追尾した。
一時間歩くと、計ったようにピプノティルスが空を飛んでやってきた。
ハンター全員で伏せて、光を浴びないようにする。
催眠状態にされた御者がピプノティルスの後に従いて道を外れる。
ランドルたちはそろそろとピプノティルスを尾行する。
二十分ほど歩くと、御者は牛車から大王牛を外して、大王牛に乗る。
御者は牛に揺られて、どこかに進んで行く。
ランドルたちは、じっとピプノティルスの動向を見守った。
ピプノティルスは前回と同じように目立ち魚を食べ始めた。
どこかで、眠りこけるかと思った。だが、ピプノティルスは全て魚を食べた。
「あかん。このままやと、食い逃げされる。こうなれば一斉攻撃や」
全力で走る。弩に睡眠弾をセットして、射程ギリギリから一斉掃射をする。
距離があったが、全弾命中した。
ピプノティルスがランドルたちに気が付き怒って、走り込んでくる。
次弾を装填して、睡眠弾を撃つ。全弾命中する。
すると、ピプノティルスがふらふらし出した。
「よし、睡眠薬の成分が蓄積されてきた、このまま押し切る」
弾を弩に装填していると、ピプノティルスの角が光った。
目を閉じて光を防いだつもりだった。だが、急速に頭痛を伴う眠気が襲ってきた。
まずい、と悟ってハッスル・ナッツを噛む。
眠気は半分ほど飛んだ。だが、ランドルは頭がくらくらしていた。ばた、ばた、と周りでハンターが倒れる音がする。
五発の弾がピプノティルス目掛けて飛んで行く。今度は三発しか当たらない。
ピプノティルスが空に飛んで逃げようとした。
ランドルは意識が朦朧としていた。それでも、睡眠弾を装填して撃った。
ばた、ばた、と眠気に耐えられなかったハンターが倒れる音がした。
「寝たらあかん。ここで寝たら逃げられる」
ランドルは大声で叫んだ。だが、返事はなかった。
ぼやけていく意識の中でハッスル・ナッツを齧る。そこで、一度、意識が途切れた。
目が覚めた時には眠りこけるハンターの輪の中にいた。睡眠不足に似た頭痛を感じる。
(まずい、寝てしもうた。どんだけ眠った)
陽はまだ高い。一分ぐらい寝たような気もするし、一時間も寝た気もする。
「おい、しっかりせい。起きろ、起きるんや」
ランドルは無理にハンターを起こそうとした。
けれども、起きられたハンターは三人だけだった。
起きられたハンターに指示を出す。
「ピプノティルスもそうとうに眠いはずや。もしかしたら、近くに墜落しとるかもしれん。急いで辺りを調べるで。時間との勝負や」
ハンターたちが辛そうな顔で了承した。
「わかった。急いで探そう」
ランドルは、起きないハンターは無視した。
起きられたハンターたちだけで付近を捜索した。
ハッスル・ナッツをいくつも齧ると、しだいに頭が冴えてくる。
(こんなにハッスル・ナッツを一度に齧るって、体に悪いんやけどな)
二十分経過後、合図を知らせる信号弾が上がった。
急いで、信号弾のある場所に行く。倒れたハンターとピプノティルスがいた。
(ピプノティルスを見つけて、安心して眠ったか)
ランドルはピプノティルスに麻酔薬を嗅がせる。
ピプノティルスは睡眠薬にある程度の耐性があった。なので、麻酔薬は多めに使った。
他の二人のハンターも駆けつけてきたので、ハントが成功したと確信した。
ハントの成功の信号弾を上げた。
ハントが無事に終了したと安堵すると、急激に眠くなってきた。
「すまん。わいも、ここまでや、あとは、よろしゅう頼むで」
やってきた二人のハンターに後を託す。ランドルは眠りに落ちた。
目が覚めた時にはハンター・ギルドの酒場だった。
酒場の一角にある広間にランドルは転がっていた。
ブリトニーがいたので声を懸ける。
「ピプノティルスは、どうなったん?」
「無事に研究施設に運ばれました。懸賞金もしっかり下りますよ」
「そうか。やったか。ギリギリの戦いやったな」
ランドルは一風呂浴びてさっぱりしてから、浜に戻った。
五日目、六日目、七日目と漁は順調だった。目立ち魚の漁を終えた。
漁の最終日に牛車と一緒にランドルはブレイブ村に帰った。
銭湯に行った後に、山海亭に顔を出す。メニューを確認する。
きちんと目立ち魚料理があった。
「大将。目立ち魚の煮付けをちょうだい。あと、煮付けに合う辛口の酒も頼むわ」
店に常連が入ってくる。
「ランドルさん、無事に帰ってきたね。今日が漁の最終日かあ」
「煮付けを喰うなら今日やな。一夜干しが喰いたいなら明日までやで」
「そうか、なら、今日は贅沢して俺も目立ち魚の煮付けを喰うか」
別の常連も入ってきて、二人の注文した料理を見る。
「いいね、目立ち魚の煮付けか。俺も煮付けを貰うわ」
その日は、山海亭で目立ち魚の煮付けがよく売れた。
後日、ランドルはホークから報酬を受け取る。報酬は、まずまずの額だった。
「牛車四台分もの目立ち魚をピプノティルスに食われた。せやけど、懸賞金が入ったから補填できたようやね」
ホークは改まった顔で感謝した。
「裏を返せば、懸賞金がなけりゃ儂らの収入は少なかったって状況じゃ。一緒に来てくれてありがとう」
ホークは優しい顔をして帰って行った。こうして、目立ち魚漁の季節は終わった。




