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十二品目 襟巻駝鳥(後編)

 武具工房から防具が完成したと連絡があったので、取りに行く。

 スザンナに装備させると、サイズはぴったりだった。請求書の金額を見たが、かなりいい金額だった。


 スザンナは新しい防具がいくらになったか気にしていた。

 だが、ランドルは請求書をポケットに素早くしまった。


「金のことは気にせんでよろしい。まずは昇級審査に通ることや。昇級審査に通ってまだ気になるようなら、払ったらええ。もちろん、わいが勝手に作ったから、払わなくてもええ」


 スザンナは頭を切り替えて真面目な顔して訊く。

「わかったわ。なら、今日は何をするの?」


「防具ができたから、襟巻駝鳥と戦う」

 スザンナは素直に喜んだ。


「やっと、野葡萄採取とお別れできるのね。私は採取より戦うほうが好き」

「ところで、スザンナはんの武器は何?」


「私の武器は両手ハンマーよ」

「両手ハンマーを片手剣と盾に換える気ないか。まずは、防御できる盾でしっかり襟巻駝鳥の攻撃を防御する。それで襟巻駝鳥の動きを見て癖を読んでほしい」


 スザンナむすっとした顔で反論した。

「でも、昇級審査の時はハンマーで行くわよ。審査の時だけ武器を換えても実戦で使えないと意味がないし」


「わかった、なら、ハンマーでいこうか」

 ランドルは無理に意見を押し付けなかった。


「注意したり、諭したり、しないの?」

「ハンター商売は何でも自己責任や。自分でこうしたい、こうでありたい、と思うのなら、自分の気持ちに従ってほうが、ええ結果が出る」


(それに、スザンナはんが我を通すと思ったから高っかい防具を作った。わいの目があって、この高い防具があれば何回しつこく蹴られても、死にはせんやろう)


「ほな、襟巻駝鳥がいる場所に行くで」

 湖のほとりにある草原に行く。全長三mの襟巻駝鳥がいた。


 襟巻駝鳥に近付く。気が強い襟巻駝鳥は威嚇の声を上げる。

「わいは見とるから、まず好きに戦ってみい」


 スザンナがハンマーを振り上げ、向かって行った。

 結果はぼろぼろだった。スザンナの攻撃は襟巻駝鳥に当たることは当たった。


 だが、襟巻駝鳥の得意とする後ろ蹴りを何度もスザンナは喰らった。

 スザンナが失神すると、ランドルは出て行く。


 すると、襟巻駝鳥はこれ以上の戦いは危険と判断して退散した。

 スザンナを起こして、気付け薬と体力回復薬で回復させる。


「どうした? まだやれるか?」

「まだ、やれるわ」とスザンナは勝ち気な表情で立ち上がる。


 ランドルはまた別の襟巻駝鳥を見つけてきて、スザンナが襲い掛かる。

 結果は同じ。またも、後ろ蹴りを何発も貰ってスザンナは倒れた。


 もう一回やるが、またも同じ。その日は、それで訓練終了とした。

 ぼろぼろになったスザンナを連れて、ブレイブ村に帰る。


 翌日、ランドルの家にスザンナが来た時に尋ねる。

「今日も襟巻駝鳥と戦う訓練をする。せやけど、嫌になったら投げ出してもいいんやで」


 スザンナは目に力を込めて答える。

「やるわ。ここで投げ出したら、大物ハンターになんか、なれない」


 スザンナは襟巻駝鳥と三連戦した。けれども、その日も一勝もできなかった。

 次の日も、次の日もスザンナは負け続けけた。


(ダメやな。気ばかり焦って、学習する態度がないのう)

 四日目にランドルは提案した。


「今日は、わいが襟巻駝鳥と戦うから見ていて。ただし、これ秘密やぞ」

 ランドルは鎖の先に長さ八十㎝のハンマーが付いた鎖ハンマーを持ち出した。


 武器を交換して襟巻駝鳥に挑む。襟巻駝鳥の縄張りに入ると襟巻駝鳥が興奮して攻撃を仕掛けてきた。


 啄み攻撃、頭突き、前蹴り、後ろ蹴り、後ろ回し蹴り、ランドルは全ての攻撃を引き付けて悠々と躱した。


 しまいには攻撃している襟巻駝鳥が疲れて、逃げだそうとした。

 ランドルはハンマーを振り回して投げて、襟巻駝鳥の首に絡める。鎖が襟巻駝鳥の首が絞まったところで馬乗りになった。鎖で首を絞めて気絶させた。


 ランドルは感心して見ていたスザンナに声を懸ける。

「とまあ、こんなところかのう」


 スザンナは目をきらきらさせていた。

「凄いわ。攻撃を一度も貰わないで、襟巻駝鳥を倒した」


「武器の相性がよいせいもあったな。鎖ハンマーやと、襟巻駝鳥が逃げようとして後ろを見せた隙が衝ける」


「それでも、私があれだけ苦労して倒せなかったのに、こうも簡単に行くなんて凄いわ」


「感心していたらあかんで。中堅ハンターなら無傷で倒せる。将来は大物ハンターなんやろう。なら、ここで停まっていたら、あかん」


「師匠、武器を貸してもらって、いいですか」

(師匠? 何か、嫌な予感がする呼び方やな)


「武器を貸すのはええけど、わいの呼び名は、ランドルでええで」

 気絶させた襟巻駝鳥は麻酔薬を嗅がせてブレイブ村に送る手筈をとった。


 その後、スザンナは武器を交換して襟巻駝鳥に挑んだ。

 だが、ランドルと同じように動けるはずもなく、あっさりと襟巻駝鳥にノックアウトされた。


 最後に、もう一戦と挑む。次はいい感じに力が抜けていた。柔らかな動きができて、襟巻駝鳥が逃げ出すところまで行けた。


 ランドルは素直に褒めた。

「最後の動きはよかったで。あと、もう何戦かすれば、襟巻駝鳥をハントできるやろう」


「はい、ありがとうございます。師匠」

 ブレイブ村に帰還した翌日、スザンナは武器を鎖ハンマーに持ち替えて現れた。


「あれ、武器を換えたんか」

 スザンナは明るい顔で告げる。


「襟巻駝鳥は鎖ハンマーのほうが狩り易いと判断しました。昇級試験を通るまでは鎖ハンマーで行きます」


「ええで、相手によって武器を交換するのも、また一つの手やからなあ」

 その日、二戦目にてスザンナは襟巻駝鳥を仕留めた。


 ランドルは素直に褒めた。

「おめでとう。これで補習は終わりや。昇級審査がんばりや」


 スザンナは改まった顔でお願いした。

「そのことなんですけど、ランドル先生。私の正式な師匠になってくれませんか」


 ランドルは厳しい態度で突っぱねた。

「それは、駄目や。わいにも事情があるねん。師匠にはなれん。師匠が欲しいのなら、ハンター・ギルドに相談してくれ」


 スザンナは縋って頼む。

「そう断らずに、お願いします」


「駄目や。駄目や。講義はここまで。わいは帰るで」

 ランドルは逃げるようにブレイブ村に帰った。


 銭湯に行ってから山海亭に顔を出す。

 襟巻駝鳥料理がメニューにあった。


「何や? 今日は襟巻駝鳥の料理があるんか」

 キャシーが笑顔で答える。


「新人ハンターさんの補習や昇級試験が増えてきました。そのおかげで市場に安く美味しい襟巻駝鳥の肉が供給されるようになったんです」


「そうかー、他も活発なんやな」

「他も?」とキャシーが不思議そうな顔をする。


「何でもない。こっちの話や。とりあえず、ビール。それに襟巻駝鳥とキノコの炒め物をちょうだい」


 店に常連たちが入ってくると、襟巻駝鳥料理に気付く。

「襟巻駝鳥の季節到来か」


「新人ハンターに乾杯だな」

 店は陽気なムードに包まれた。

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