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九品目 七面鳥ジャーキー(中編)

 マックスがゴールド・ベアを狩った三日後だった。

 樹海に入ったランドルは、またも金色の体毛を見つけた。


(あれ? まだ、体毛が落ちとる、先日の残りやろうか?)

 不審に思って、ブレイブ村のハンター・ギルドに行く。


 ハンター・ギルドでは険しい顔をしたハンターが噂していた。

「聞いたか? 浅い深度で、中堅ハンターが何人も行方不明になっている話」


「聞いたよ。死体は無残に食い荒らされて、ほとんど残っていないんだろう? 何か怖いよな」

(何や? ゴールド・ベアの他に恐ろしい魔獣が、樹海の浅い場所に出てきとるんやろうか?)


 ランドルは気になったので、ハンター・ギルドの裏に回る。

 ハンター・ギルドの裏には、樹海で死んだハンターの墓があった。


 ランドルは墓守コボルドのスニークを訪ねる。

 スニークは老いたコボルドで全身の毛が白かった。


「爺様、ちょっと聞きたい。浅い深度で亡くなったハンターの情報や」

 スニークは何も言わずに、じと目でランドルを見る。


 ランドルは金貨を出すと、スニークに握らせる。

 スニークは暗い顔で語り出した。


「大型の魔獣の仕業だな。一撃で致命傷を負わされ。全身をぼりぼりと喰われた跡がある」

「どんな魔獣や?」


 スニークは暗い顔のままで意見を語る。

「金属鎧をも噛み砕き、魔獣素材も食う。かなり悪食(あくじき)な奴か、はたまた、やたら腹が減らしておる魔獣じゃ」


「どんな魔獣か、わからないんか?」

 スニークがランドルを(なだ)める。


「そう、慌てるな。相手の正体は、わかる。エイドリアンにも教えた。魔獣はゴールド・ベアじゃな」


 納得がいかなかった。

「ゴールド・ベアはマックスが倒したで」


「二体いたんじゃな」

「一体を追って、もう一体が出てきたんかん。でも、待てよ。とすると、マックスが倒したゴールド・ベアは子熊で、今ハンターを襲っているゴールド・ベアは母熊か」


 スニークは険しい顔で意見する。

わしも、そう思う。じゃが、子熊で七mは、でかいぞ」


「元からでかい特異個体か。体がでかいから、腹も減りやすい」

 スニークは(おごそ)かに告げる。


「子供を失って気が立っている上に、空腹。しかも樹海深度一の外には、この村がある。言いたい趣旨はわかるな」


「早くに退治しないと、村が危険なんやな。わかった。他に何か情報があるか?」

 スニークが真面目な顔をして教える。


「ローラの七面鳥ジャーキーじゃ」

「こんなときに携帯食料の話をしている場合やないで」


 スニークは、むっとした顔をした。だが、教えてくれた。

「だから、慌てるな、と(さと)しておろう。ゴールド・ベアは腹が空いておる。なのに、七面鳥ジャーキーだけは吐き出しておった」


「奇妙な話やな。一緒に喰えばええのに」

「七面鳥ジャーキーは、ハンターにとっては美味い携帯食かもしれん。だが、野生の魔獣にとっては毒なのかもしれん。または、アレルギーを引き起こすのかもしれんな」


「ひょっとして、青唐辛子が駄目なんかもしれん。ゴールド・ベアが出現する場所は樹海深度四以上。樹海深度四以上には、青唐辛子は生えないからのう」


 スニークは(しか)めっ面で締め括る。

「儂が教えられる情報は、そんなところじゃ。断っておくが、間違っていても責任は取れんからな」

「わかった。貴重な情報を、ありがとうな」


 ランドルは家に帰る。

 部屋で青唐辛子を粉末にして、(いしゆみ)用の破裂弾を作る作業を開始した。


 夜も更けると、帰り支度をしたキャシーがランドルを呼びに来た。

 キャシーが申し訳ない顔をして詫びる。


「夜分遅くに、御免なさい。店にエイドリアンさんが来ています。エイドリアンさんからランドルさんを呼んでくるように言付かりました」


「ちょうどええわ。夕食まだやし、何か余り物でも食うてくるわ」

 ランドルが一階の山海亭に降りて行くと『準備中』の札が出ていた。


 気にせず、店内に入る。残っている客は、エイドリアン一人だった。

 真剣な顔をして一人で座るエイドリアンの隣に座る。


「エイドリアン先輩。わいに何の用でっしゃろう?」

「今日、樹海に全長十五m、体重二十tクラスのゴールド・ベアが出現した」


「ゴールド・ベアだけでも恐ろしいのに、そんだけ大きうなると、熟練ハンターでも太刀打ちできませんな」


 エイドリアンの表情は厳しい。

「だが、放っておけば、ゴールド・ベアは村に降りてくる」


「そうなれば、どれほど犠牲が出るか、わからないですな」

 エイドリアンは目に力を入れ、頼んだ。


「だから、村に降りてくる前に、巨大ゴールド・ベアを討つ。力を貸してくれ、ランドル」

「普段なら、お断りするところや。せやけど、村の危機とあっては、立ち上がらんわけには、いきませんな。ええですわ、微力ながら力を貸します」


「明日の深夜までに準備を整えておいてくれ。狩りは俺とお前。それにマックスの三人で行う」

「わかりました。ほな、わいは弩で行かせてもらいますが、ええですか?」


 エイドリアンの顔はランドルを信じ切っている表情だった。

「頼りにしているぞ、ランドル」


 朝になった。弩で撃ち出す青唐辛子破裂弾を作り終えた。

 必要となるであろう、残りの、煙幕弾、発光弾、爆裂弾を用意しておく。


 ニックから弩を出して貰い、受け取り、整備する。

 準備を終えた後、ひと眠りする。銭湯に行ってから、狩り支度をした。


 ハンター・ギルドでエイドリアンとマックスと合流した。

 三人で飛竜便に乗って村からもっと近いキャンプの一番に降り立つ。


 ランドルは森の奥から漂ってくる怒気を感じた。

「エイドリアン先輩。こちらに、ゴールド・ベアが向かっとりますね」


 マックスが険しい顔で意見を述べる。

「村を襲う気か。そうはさせん」


 大剣を背負ったエイドリアンが、厳しい顔で作戦を伝える。

「決戦の場所は、ここから十五分ばかり行った平野で行う。俺が正面から斬り合う。マックスは背後から攻撃。ランドルは適宜、援護をしてくれ」


 ランドルはマックスにアドバイスする。

「マックスはん、敵は強大や。雰囲気に飲まれたらあかんで」


 マックスは膨れっ面で否定する。

「俺は、そんなに臆病じゃない」


(変に力が入っとらんようやし。マックスはんは大丈夫なようやな)

「わいは煙幕弾で、二人の位置を隠す。せやから、常にエイドリアン先輩の位置とゴールド・ベアの攻撃を気配で探ってや。できるか?」


 マックスは自信たっぷりに応えた。

「今の俺なら、できる。任せてくれ。無様な結果は残さない」


 ランドルは号令を懸けた。

「よし、行くで。ゴールド・ベアのハントや」

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