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七品目 痺れ鰻(後編)

 翌日、仕掛けた漁具から鰻を回収に行く。

 今度は痺れ鰻が一尾に鰻が二尾と収獲が少なかった。


(こういう日も、あるやろう。今度は少し位置を変えて置こうか)

 ランドルが漁具の位置を変えてキャンプに戻ろうとする。


 すると、キャンプでサラと遭った。

「サラはん、どうや? 今日は魚が獲れたか?」


 サラは憤っていた。

「それが、聞いてくださいよ。私の漁具から魚を盗んでいた奴がいたんですよ」


「ほんまか? 猿やなかったのか」

「ええ、同じハンターでした。そいつが、私の仕掛けた漁具を拾い上げて、中を確認していたんです」


「中にあった魚を盗ったんか?」

「いえ、漁具の中には魚はなかったです。でも、あったら取ったに決まっています」


「そのハンターの風貌を教えてくれるか? わいが注意したるわ」

 サラは若い男性ハンターの風体を教えてくれた。


 ランドルは帰ると、ハンター・ギルドに行く。

 ブリトニーに、ハンターが使ったキャンプ地の番号とハンターの風貌を教える。


「このハンターの名前がわかるか?」

 ブリトニーが心配顔で尋ねる。


「おそらく、ケントさんですね。ケントさんが、どうかしましたか?」

「誤解やと思う。せやけど、ケントはんに魚泥棒の疑惑が懸かってとる」


 ブリトニーが憂いを帯びた顔で意見する。

「あまりよくない状況ですね」


「せやから、誤解を解くように忠告してやるわ。こんな狭い村で(いが)み合っていたら住みづらくなる」


 ランドルはギルドでケントが戻ってくるのを待った。

 夕方になると、一人の青年ハンターがランドルの元にやってきた。


 青年は茶色の髪をして、日焼けした肌をしていた。装備は短弓を武器にしていた。

 青年は、やや疲れていた。


「あんたがランドルさん。俺がケントだ。俺に用って、何?」

「今日、他人の仕掛けた漁具を触ったやろう。そんで漁具の持ち主が魚泥棒やと勘違いしとる。早めに漁具の持ち主に謝って、誤解を解いたほうが、ええで」


 ケントは怒った。

「何を馬鹿な話をするんだ。あれは、河で顔を洗おうとしたんだ。そしたら何かが落ちていた。気になって拾い上げただけだ。魚泥棒だなんて、いいがかりだ」


「そんな事情やろうと思った。でもな、誤解は早いうちに解いておかんと、まずいで」

「馬鹿げているよ。謝る必要なんてない」


 ケントはむすっとした顔でランドルの提案を拒絶すると、去っていった。

 その後、数日はサラともケントとも遭わなかった。


 ランドルといえば、日に一尾、二尾と痺れ鰻を大将に売って生活していた。

 そんな、ある日、仕掛けた漁具を回収に行った後にキャンプ地に戻る。


 キャンプ地にいたコボルドが、慌てた顔で駆け寄ってきた。

「すいません、ハンターさん。手を貸してください」


「何や? どないしたんや?」

「大猿火を狩りに行ったハンターがいるのですが、大猿火の縄張りに火竜が降り立ちました」


「狩りの途中に、他の魔獣が乱入してきたんか。複数の魔獣を相手にするのは、新人には辛いな。そんで火竜が降り立ったのは、どれくらい前や」


「二十分ほど前です」

「あかんな、それは、新人が犠牲になったかもしれんぞ」


「でも、まだ戦闘音が続いているので、ハンターさんが生き残っている可能性があります」

「よし。どこまでやれるかわからんが、助っ人に行ったるわ。予備にとってある、狩りに使える道具を出して」


 鰻を預け、最低限の装備を借りる。ランドルは樹海の中を急いだ。

 コボルドが申告していた通りに、遠くでは火竜が木々を薙ぎ倒す音が聞こえていた。


 また、火竜の吐いた炎が、木を焼いた焦げ臭も辺りに立ち込めていた。

(間に合ってくれ。若い命を、ミスミス死なすわけにはいかん)


 戦いは樹海にできた平地で行われていた。平地には大猿火が倒れていた。

 大猿火から離れた場所でケントが必死の顔をして、弓で火竜の顔を攻撃していた。


 火竜が勢いを付けて突進する。

「ケントはん、危ない」


 ランドルは叫ぶ。ランドルの叫びに一瞬だけ火竜が気を取られた。

 隠れていたサラが必死の顔で蔦に掴まって飛び出す。


 サラは火竜の背に落ちた。サラは火竜の背にしがみつき、刃物を突き立てた。

 火竜は痛がって暴れた。


 ケントが暴れる火竜の動作を読んで、冷静に火竜の顔に矢を浴びせる。

 火竜が空に飛び上がる。


 サラは危険を察知して、すかさず飛び降りた。

 サラの落ちた場所に、火竜が急降下を掛ける。


 ケントが飛び出した。サラを抱えて横に飛ぶ。

 火竜が地面に接触する。先が鉤爪になった拘束ワイヤーが地面から八本ぬっと飛び出した。罠が火竜を拘束した。


 すかさず、サラが太刀を抜き、鋭い斬撃を打ち込む。ケントが矢で火竜を射る。

 拘束は二十秒ほどで解けた。火竜は堪らないと思ったのか空に飛び立ち、遠くへ去っていった。


 ランドルはサラとケントの元に駆け寄った。二人は満身創痍だが、元気だった。

「よく、無事やったな」


 サラとケントは、にっこり微笑む。二人は抱き合うと熱いキスをした。

(出会いが最悪やと、後々に恋に落ちるいう、あれか。何か、危機感を持って駆けつけたわいが、馬鹿みたいや)


「ほな、わい。邪魔みたいやから、帰るわ」

 ランドルはキャンプ地に戻る。借りた装備を返す。痺れ鰻を回収して帰路に就いた。

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