志那乃の弟
拙歌一首「お泥土に咲くもいとしき水蓮と思いしゃんすな知るや花言葉」
花言葉の写真に添える一文:この和歌の歌意はなんでしょうか?蓮の花言葉は「清らかな心」「神聖」「沈着」など好もしいものばかりですが意外や一つ二つ伏意も含めて異なるものがあります。それは「離れ行く愛」と「不吉」です。前者は蓮の花が4日間くらいしか咲かずすぐに散ってしまうのですが、その際、一枚二枚と散り行く様が恋人の心が徐々に離れて行くのに似て、斯く花言葉となったのだとか。後者はこれは日本ならではでしょうが、蓮は仏教の象徴なので仏事専用となり、つまり「不吉」になったのだと云われます…。
蓮は清水に咲くよりも汚泥に咲いた方が花は大輪になるそうです。果して華の芸妓界とは云え水商売には違いない世界に生きる志那乃は、その美しさを以ってこの先後者側の花言葉を向一にもたらすことになるのでしょうか…?しかし話はまだまだそこまでは行ってません、さあ、この先の展開は…?
志那乃「あ、あかん、ついうっかり(軽笑)いいえ、何でもおへん。うちは京都の木屋町界隈で踊り関係の仕事をしてますねん」
向一「踊り……ですか。お師匠さんのようなものですか?」
志那乃「へ、へえ、確かに。若い舞子はんたちにも時々教えまっせ。どうどすか?学生はんも。手取り足取り、あんじょう教えまっせ(艶笑)」
向一「い、いや、とんでもない(軽笑)しかしそれでわかりました。さきほど法隆寺でポーズを取られたのが、とってもお上手て(軽笑)……ただ、しかし……なぜそれが、そこで踊りを教えるのが、木屋町でしたっけ?なぜ、辛いというか、悲しいことになってしまうんです?さきほどそうおっしゃってました……」
志那乃「(苦笑)そう問い詰めんと……堪忍でっせ。そうどすなあ、昔のことやけどうちに弟がいましたんねん、年は八つも離れとって。あんさんと同じ花の大学生やった」
向一「はあ、そうですか。そうしますと今はもう社会人の方ですね?」
志那乃「いいえ」
向一「え?まだ……?」
志那乃「へえ、まだ。天理医療大学の学生ですねんけど」
向一「……ははあ、医科大学ですか。それならそこでそのままインターンをされて……それはそれは。ご自慢の弟さんですね」
志那乃「(笑い)学生はん、ずいぶん年の行ったような云い方をされて(笑い)」
向一「は、はあ、すいません。生意気を云ってしまいました。おそらく……僕より年上の方をつかまえて」
志那乃「いいえそれは……うーん、でもどうでっしゃろ。学生はん、失礼ですけどいま年おいくつですか?」
向一「21です」
志那乃「21……ほならいっしょです、弟と。うちの弟も21、もうずっと変わらへん」
向一「?」
志那乃「……死にました。2年前に。自殺です」
団子屋の間口死角にいたカラスが突然間口を横切る形で飛び立つ。向一驚くが志那乃は平然としている。