難波漫才
再び泣かんばかりの和泉の様子にさすがの向一も立ち去ることを逡巡せざるを得ない。
向一「はあ…でもお礼なんてそんなこと…僕は」
征二「いえいえいえいえ、あんたはん、あんたはん、姿はん!ここで行ってもうたら絵になりまへんで。見とくんなはれ、こちらのいとはんを!えー?こないな上玉を放かして行てまうなんて、そりゃあんた…」
番頭「(征二に)じゃかましい。おのれは。いとはんをつかまえて上玉とはなんじゃい。上玉とは。自分が欲しそうな顔さらしをってからに」
征二「番頭はん、そりゃ自分や」
明子「やっかましい。征二も、番頭はんも。ほんまに。こないな時に漫才すなや。(向一に愛想笑いしながら)どうもすいまへん、ほんまに。ところでお客はん、いやおたくはん、どうかあてからもお願い致します。旦はんといとはんの顔を立てたってください。な?関東男と見込んで、お頼もうします(両手を合わせる)」
征二「そう!そうそうそう、それっ!関東一文字清次や!えーらい!明子はん、よう云わはった。(向一にすがって)清次はん、一文字の兄貴、どうかお願いしまっさ。ね?」
さすがの向一も些かでも吹き出し、相好を崩してしまう。
征二「あは、笑った!笑った、笑った。(手を叩きながら)もう、もう大丈夫でっせ、いとはん。清次はん、笑ってくださった。もう、どこでも、臥所でも何でも、朝までつきおうてくださるって」
和泉「アホ云いないや(苦笑)。ほんまにもう、誰が清次はんや。征二はあんたでしょうが」
番頭「もう、もう、何でも云いさらせ。この。(従業員男Aに)おい、黙っとらんとおまえも何か云ったらんかい。征二にいとはん、取られてまうで」
従業員男A「こら、征二」
征二「なんじゃい」
従業員男A「な、なんでもない」
正夫「あきれた。なんちゅう手代どもや。和泉をお前らにやる気など毛頭ないで、わしゃ」
番頭「何をおっしゃいますやら、旦那はん、ただのてんごう(冗談)ですがな。誰が大事ないとはんをこんな手代どもに。あてなら別でしょうけど」
正夫「アホ抜かせ。だいたいおまえ、女房おるやないか」
番頭「あれは放かしますさかい…」




