どうかお礼を…
番頭「(征二に)おまえは下がっとき。(向一にお辞儀しながら)どうもこの度は…危ういところを救っていただいたそうで、お礼の申しようも…いま旦さんも参りますさかい…」
正夫「(皆に遅れていま到着。息を切らしながら)い、和泉…だ、大丈夫か?大事ないか?」
和泉「まあ、おとうはんまで。いややわあ、息を切らせて。大丈夫よ。(明子や番頭に)なんでおとうはんまで連れて来たの?身体に障るやないの!まったく、大ごとにして」
番頭「すんまへん。それでも、電話を受けたのが旦はんで…受けるや否や〝えらいこっちゃー!〟と云わはりましてな、あてらに号令かけましたさかい…」
商店の女房「堪忍してえなぁ、電話したうちが悪かったんや。和泉ちゃんからもさっき叱られて…」
亭主「ほんまにどうもすんまへん」
正夫「いやいや、とんでもない。知らせてくれてほんまに、おおきに(夫婦に頭をさげる)。順一があないなことになって、この上和泉までもしものことがあったら、わしは…わしは、もう生きとられまへんで(再び夫婦に頭をさげる)」
亭主「(正夫にお辞儀を返しながら)いやいや、山城さん、うちらよりこっちのお方へ(向一を指し示す)」
女房「ほんま、立派でしたえ。口で云うより手の方が早い。あのカッスどもを投げ飛ばしてしまいましたがな。姿三四郎やった」
正夫「(向一に向き直りながら)そうですかあ。そりゃほんまにどうも。どなたか存じませんが、まことにおおきに(お辞儀をする)」
向一「いえ、とんでもありません。ぼくはただ、ちょっと…。ただの通りすがりの者でして…もうお嬢さん、大丈夫なようですから…ここらで失礼いたします」
正夫М「(小声で)東京の人かあ…」
正夫「いえいえ、どうかそうおっしゃらずに。このままお礼もせずに行かせてしまっては、山城屋の面目が立ちません。いったん店に来てもらうなり、どこぞ場所を変えまして…。な、和泉」
和泉「ほんまに、騒ぎに巻き込んでしもうて申しわけありませんでした(向一にお辞儀する)。あの、ご面倒でしょうけど父も、わたしもこのままでは気が済みません。どうか暫くでもお時間をいただけないでしょうか」




