旅館成駒屋2
女将「そうですか。それはよろしゅうおした(愛想笑い)。きょうは?これからどこぞへお参りですか?」
客男A「いやいや、とんでもない。これから新幹線で東京へ帰ります。私らビルの設備関係の者で、こちらへは仕事で来ただけですから。客先に不具合があったら正月でも休めませんよ(笑い)」
女将「まあ、それはそれは。ご苦労様でございます」
客男A「いやいや(笑い)いや、その仕事も昨日で終りまして、本当はせっかくこうして関西まで来たんだから、どこかでこう……羽目をはずしたいんですけどね……」
客男B「ダメダメ。こいつも私も、お互い怖い山の神が家で待ってますもんで」
客男A「それそれ。こちらの言葉で、ほんまに往生しまっせって云うやつですわ(笑い)」
女将「(笑い)そうですか。それなら東京の言葉で(見得を切りながら)行かざなるめーな、ですね」
客男A「あ、うまい」
客男B「よ、成駒屋!」
女将、客男A、客男B「(笑い)」
勘定を済ませ客2人出て行く。見送る番頭・仲居ら。同旅館内、一階奥の部屋のドアが開く。廊下に出て来る入江向一、その足元。ドアを閉めてロビーへ向かう向一の足元。向かう先に明るいロビーが。向一の目線にそれが近づいてくる。やがて向一に気が付く女将。帳簿から目を上げて向一に笑顔をつくる。
女将「お早うございます」
向一(21)「お早うございます」
女将「明けましておめでとうございます」
向一「(素気なく)あ、どうも……勘定、お願いします」
女将「(軽笑)そうですか。ほな、消費税込みで10800円いただきます」
勘定を済ませて会釈をし無言のまま立ち去る向一。
女将「(向一の背に)おおきに。またお越しくださいませ」
番頭、仲居ら「おおきに。またお越しくださいませ」
向一「あの、大阪駅行のバス停は…?」
番頭「はい、大阪駅ですか。それならすぐそこです。旅館出て右へ100メートルほど行ったところです。(仲居2人へ)ちょっとご案内して」
向一と仲居2人連れ立って通りへ出る。