すわ、いとはんの大事
向一「わかります。わかります。わかりますが、じょ、女性の身で無茶は……無茶はいけませんよ。ね、きっと、きっと今に捕まりますよ。あなたのような方にそんな、そんな真似はさせたくない。ぼ、僕は行かせませんよ。この手を離さない!」
必死の向一の態度に打たれたように、振り解こうとする和泉の動きが止まった。向一の目を凝視しついでその手の中に泣き崩れる。女性などそもも触れたこともない向一が和泉の激高に胸を打たれて、思わず和泉を胸に掻き抱く。不良グループを恐れて近づけないでいた女将夫婦が今更のように側に寄って来る。
亭主「だ、大丈夫ですか?あんたはん。お怪我はありませんでしたか?和泉ちゃんも大事ないか?」
向一の手の中でしゃくりあげながらも肯いてみせる和泉。夫婦の目を気にして抱きしめていた和泉の身体を引き離す向一。
亭主「いやあ、加勢しようと思ったやんけど、あ、足がすくんでもうて、も、申しわけない」
女房「何をいまさらそんなこと云うてんのや。なっさけない。だいたいまだ二人だけにしといてやればええのに、おのれは……気ぃ利かせえや」
亭主「そ、そうやった。気ぃつかんかった。そ、そやけど今更離れるわけにもいかんし(笑い)こりゃ女房に仇取られた」
女房「ごちゃごちゃ云うとらんと、そこ退いて」
女房、向一から和泉を預かるように抱きかかえて
女房「和泉ちゃん、えらかったな。もう安心やで。あてが家に電話しとったさかい、な。もう、おっつけみんな駆けつけて来るやろ」
聞かせる間もなく山城屋の面々が息せき切って駆け付けて来る。
番頭(50位)「いとはーん!だいじょうぶでっか?」
従業員男A(30位)「いとはん!いま行きまっせ!」
従業員男B・別名慌てもんの征二(30位)「こんガキャあ、承知せんぞ!」
明子「えらいこっちゃ、いとはーん!」
正夫「い、いずみーっ!大事ないかー?!」
自分を取り戻した風の和泉、女将の手から離れながら




