バスストップ
向一「いいや、その……それいくらですか?お代払います」
和泉「いえいえ、どうぞどうぞ、このまま」
向一「いや、そうも行かないし……」
明子(50位)「お客はん、関東の方でっしゃろ?うじうじせんと男らしゅう……関東男の名がすたりまっせ。はい、手に持って(強引に手に握らす)。(和泉に)いとはん、案内ならあてがして来まっせ。(奥座敷の方を見ながら)旦はんのとこ、お行きになった方が……」
和泉「ううん、ええわ。放っといても平気よ。お店見とって。うちが案内して来る。(向一に)さあ、お客はん、参りましょうか」
向一「いや、その、口で教えていただければ……わざわざ案内していただかなくとも」
和泉「(向一の様子を見ながら)いいえ、お客はんはきっとまた迷います。断言します(軽笑)さあ、どうぞ」
和泉、向一の手を引いて表に出、連れ立ってバス停へと向かう。その途路。
和泉「東京から来られたんですか?正月休みで?」
向一「はい。あの、お寺とか見て廻って……」
和泉「そうですか。それはそれは……なんかこう、バス停だけやのうて、お寺廻りまで案内(あな
い)して差し上げたいような……そんな気持ちになります、お客はんを拝見してると(軽笑)あの、
うちの親しかった者によう似てはりまして……お会いしたのが偶然じゃないような……あら、嫌やわあ、うちは。厚かましいことを云ってしまって。すみません」
向一「はあ、あの、その……」
商店街の女(50位)「あら、和泉ちゃん。この度はほんまにご愁傷様で……」
和泉「へえ、どうも、おおきに。あの、ちょっと今お客はんをご案内中で……」
この調子で行く先々で声を掛けられる和泉。なかなか向一と会話が出来ない。その顔の広さに驚くばかりの向一。
和泉「すんまへんね、立ち止まってばかりで。これでは案内にならへん(苦笑)」
向一「はあ、いえ……あの、失礼ですがお家で何か不幸でもあったんですか?」




