奈良漬け・山城屋
〇二、三日後、奈良市内。
奈良駅行きのバス停を捜してウロチョロする向一。近くに奈良漬けのお店がある。山城屋の看板、忌中と小さな張り紙がある。道を聞こうとして店内に入る向一。その入口で太とはちあわせし、突き飛ばされる。地面に手を付く向一。
太「ぼけ!気ぃ付けんかい!」
睨みつけ、捨てゼリフ吐いて立ち去る太。中から和泉が飛んで来て向一を助け起こす。
和泉「すんまへん、お客はん。大丈夫ですか?(太を睨みつけて)ほんまにしゃあない。あの、どうぞ、中へ。お手を拭きますさかい」
向一「いえ、大丈夫です。僕はただ……」
太に怒るのでもなく、人から邪険にされるのに慣れ切ったような、哀しげな向一の姿に一瞬ショックを受ける和泉。暫し向一を凝視するが我に返ったように、今度は満面に愛想笑いを浮かべて…。
和泉「いえいえ、どうかそうおっしゃらずに……中にお入りください。ね?」
半ば強引に向一の手を引いて店内へ引き入れる和泉。店員に声を掛ける。
和泉「ちょっと、明子はん!おしぼりひとつ持って来て。早く!」
地面に付いた向一のコートを手で掃う和泉。明子の持って来たおしぼりで向一の手を拭いながら…
和泉「えろうすいまへんでした。お怪我ありませんでしたか?あれ、うちの兄なんです。奥で父と云い争いしてもうて(苦笑)ほんまに申し訳ありませんでした」
向一「いいえ、僕の方こそぼんやりしてて……あの、すいませんが奈良駅行きのバス停はどこか、教えていただけないでしょうか」
和泉「……は?バス停?……へ、へえへえ、わかりました。それならうちが今お連れしますさかい。ちょっと明子はん、その瓜の半きりをひとつお包みして」
明子、手早く半きりを包装してビニールの小袋に入れて持って来る。
和泉「あの、これお詫びの印ですさかい、お持ちになってください。バス停はうちがご一緒してお連れします。(土産を差し出して)どうぞ」




