和泉の悔恨
向一「あ、あの……ちょ、ちょっと、待って」いきなりの別れの挨拶に呆然とする向一。せっかく得たと思った、人との大切なもの、温かいものを拒否されたような面持ちで尚も食いさがる。普段の向一には悉皆見られない姿だった。
向一「あ、あの、ぼ、僕の名前は入江、入江向一と云います。あ、あの、あなたのお名前は……?」
志那乃「入江向一さんどすか。いいお名前です…うちはそれ、それですがな(名刺を指差す)。本名は聞かんどいてください。うちは木屋町の女どすえ。ほな、ごめんやす」
志那乃、二人の進行方向だった法起寺とは別の途へと去って行く。その後ろ姿を悲し気に見送る向一。空に回遊する鳩の群れ。
〇葬儀所の前、霊柩車が出棺を待っている。居並ぶ参列者たち
〇葬儀所内の一室。正夫、義男、和泉
和泉「(先程の騒ぎで堰が切れたように号泣しながら)義男叔父さん、すんまへん!うちが悪かったんや!順ちゃんがここまで追い詰められているの知らんかった。男らしゅうせえなんて、逆に叱ってもうた!うちは、うちはー!……(号泣)」
義男「(和泉の肩を抱きながら)云うな。わかった。わかった。云わんでいい……お前はなんも、悪うない!叔父さんがみんなわかっとる……」
義男が自分のハンカチを取り出して和泉に手渡す。このとき親戚の人間が来て出棺を告げる。
正夫「和泉……行こうか。出棺や」
正夫と義男に支えられながら葬儀場に戻る和泉。母律子が〝別れ花〟を手にして待っている。花を渡されて献花する和泉の目に順一の姿が……。
✕ ✕ ✕ フラッシュバッグ
順一「姉ちゃん、俺、怖いんや。もう学校へ行きとうない」
和泉「何云うとるの、男やろ。情けない。ぜんたいどこの子や?その、金よこせなんて云うとる子は。家へ連れて来いや。姉ちゃんがビシっと云うたるさかい」




