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映画シナリオ「葵の心」  作者: 多谷昇太


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木屋町の女(2)

でも結局それが仇になって(一瞬感極まったように顔を顰め)……(苦笑)ああ、あかん、また。すんまへん、ほんまに。正月早々縁起でもない話をお聞かせしてもうて」

向一「いいえ、とんでもないです。こんなお話を聞かせていただけて、ぼくは……」

この時志那乃のバックからポケットベルが鳴る。志那乃ベルを取り出して音を止める。

志那乃「ちょっと、すんまへんね、知り合いに電話せなあきまへんね。ちょっと……」

志那乃席を立って店の会計近くにある公衆電話に行き電話を始める。

志那乃「……もしもし、社長はんどすか?あたし、志那……へ、へえ、そうどす。お参りしてる内に時間かかってもうて……いややわあ、何云うてまんの(笑い)一人でっせ、一人!……へえ、もう半時もせん内に(嬌声で会話を続ける)」

向一カメラを取って法輪寺の遠景を撮る。青空に鳩の群れが回遊している。それに見とれる向一。

志那乃「……学生はん」

向一「(一瞬驚いた風に)ああ、どうも……」

志那乃「鳩は自由そうでええですね」

向一「え、ええ、そうですね」

志那乃「すんまへん、うちこれから人と会わなあかしまへんね。これで失礼させてもらいます。お会計は済ませましたさかい。それとこれ、お土産とフィルムどす」

向一「そんな……ぼ、僕が払います。全部でいくらでしたか?」

志那乃「ええですよ。お気にせんと。もう払うてしまいましたがな(軽笑)それより写真でけたらこに送ってくださいね」

志那乃名刺を向一に手渡す。そこには住所・電話番号と「茶屋・萩野、志那乃」とあった。

志那乃「送るだけでっせ。間違うてもお越しになったらあきまへんよ(艶笑)あんさんが会社勤めして出世しはったら、ね。ほな、おやかまっさんどした。楽しゅうおした。ごめんやす」

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