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第十五話

「でも、このリュックが不釣り合いでなんとか成らないかしら?」

「確かにね、甲冑と合わせると革の背負い袋の方が合いそうだけど、それもうコスプレに成らないかな?」

 ヨアンの言う通り、似合わないからと言って中世の不便な物を持ち出す意味も無い。

 モンストルに対抗する目途が立ったとはいえ、命懸けなのに非効率を持ち込むのは馬鹿のする事だ。

 そんな事を考えながら建物を出て迷宮の有る地下墳墓の敷地に入る。

「ねえ、ヨアン、この盾なんだけど、なんでグルグル回る様に成ってるの?」

「ああ、尖ってる方が自重で下に来る様になってるのと、尖っている部分で殴る為に握れるグリップが有るだろう? 縁は銀で出来てるから盾では有るけど武器でも有るのさ」

 そう言われて腕を動かしてみると腕の角度を問わず、盾が身を守るベストな角度に傾く。

 グリップを握ると盾が固定されて振り回すのも容易で、確かに殴る事も可能だと理解する。

「なんて言うか、現代の技術と歴史有る技術が融合すると凄いのね」

「そうだね、まさか現代で全身甲冑の有用性を再認識と言うか、体感するとは自分でも思わなかったよ」

 なんと言うのか、廃れた技術が時代を跨いで求められたという事だろう。

 迷宮とモンストルが出なければこういう事も起こらなかったと思うと不思議でも有るし、時代のニーズとは読めない物だと思った。


 迷宮に足を踏み入れると夕食の時間という事も有ってシーカーとすれ違う事も無く進んで行き、直ぐに四体のスクレットと遭遇した。

「ヨアンは右を」

 短く陣分けをして走り込む。


 二体ずつスクレットを分担してまず一体目掛けて懐に飛び込み右手の戦槌を頭部に叩き付ける。戦槌は勢いのままにスクレットの頭蓋骨を粉砕し一撃で息の根を止める。もう一体が腕を振り上げて攻撃をしようとしているのを見て盾の性能を確かめる為に一度受けるべきだと判断する。左腕を掲げて自分とスクレットの腕の軌道の間に盾を差し込む様にして攻撃を受ける。ガワンッと言う金属板を叩く音と共に衝撃が左腕と肩に走る。腕を動かしてグリップを握り盾の縁でスクレットの顔と言うか頭蓋骨を横殴りにするとメキッと言う音と共に下顎が砕けて落ちた。戦槌ほどのダメージは出ないらしいが、盾は武器では無い、武器と言う概念が乗らないからだろう。そう判断して左腕の流れに乗って体を左に捻り右手の戦槌を叩き込むと頭蓋骨が粉々に砕け、そしてスクレットは地面に崩れ落ちた。


 右方向を見るとヨアンも二体目を処理し終えた所が視界に入った。

 周囲を警戒しておかわりが出て来ない事を確認してから息を吐いた。

「どうだい、ジャンヌ? 鎧を身に着けての戦闘は?」

「そうね、やっぱり少し重たいわ、直ぐに慣れるとは思うけれど。それより盾の安心感は良い感じね」

 ヨアンの問いかけに少し考えて正直な感想を答える。

「それは良かった。ずっと左腕が空いたままで、片手で戦ってきたからね。両手に武器を持つか、盾を持つかでこんなに違うとは俺も思わなかったよ」

 確かにヨアンの言う通り、身を守る手段が増える、その事実だけで前に出られる気持ちになった。

 一歩前に出られる、一歩踏み止まれる、それだけで戦闘がスムーズに行えたと感じる。

 それでもまだマツーリィの処理速度に私達は追い付けていない。

 一歩詰められたと思ったけれど、まだ数歩先に居ると理解させられる。

 その事実に、悔しさが私の胸の内で膨らんだ。

「行きましょう、ヨアン。今日で完璧に使いこなせる様にするわよ」

「ジャンヌ? 目が怖いよ? 落ち着いて、ね?」

 目が据わった私を見てヨアンが頬を引きつらせながら落ち着けと両の掌でジェスチャーをする。

 それらには取り合わずに迷宮を進んで行くとヨアンも慌てて追ってくる。


 迷宮を奥に向けて歩いて行くとゾロゾロとスクレットが現れた。

 目線を走らせて数えると八体居るのが見てとれる。

「ヨアン、私が危なくなったら助けてね?」

 そう言い残してスクレットの群れに飛び込んだ。

「ジャンヌ! 何を!」


 盾のグリップを握り込んで殴り盾が出来る様に、右手の中の戦鎚を強く握って正面のスクレットの頭部を殴る。戦鎚は頭蓋骨を粉砕し、頭部を無くしたスクレットはその場に崩れ落ちた。盾で押し退ける様にして群れの中心に分け入って中央で構える。盾で突き放し、スペースを無理矢理空けて私を取り囲んだスクレットに戦鎚を次々お見舞いしていく。戦鎚が当たった所からボロボロと骨が砂の様に崩れていく。戦鎚で殴って倒し、殴り盾で距離を作りすかさず殴りつける。時折スクレットの振り回した腕が鎧を叩くがダメージは出ていない。スクレットの腕の動きに合わせて肩や胴で受ける。少しだけバランスを崩される事は有っても内側には大した衝撃も来ない。盾の縁でスクレットの顔を殴ると歯がボロボロと砕けて散らばる。それでも痛覚やダメージを認識していないのかスクレットの攻撃の手は緩まない。緩まないが私の攻撃も止めないし、止まらない。そのままの勢いで戦鎚を振り続けて八体のスクレットを駆逐しきる。


 周囲を確認して他にスクレットが居ない事を確認してから肺に溜まった二酸化炭素を吐き出した。

「ジャンヌ! なんで! 一人で飛び込んだ?」

 弾む息を抑えながら詰問して来るヨアンに応じる。

「鎧の耐久度を測る為、よ? それにヨアンなら私がピンチかどうかは見て分かるでしょ?」

 正直、群れの真ん中で奮闘している所に割って入る自信が無かったから自分でやった。

 ヨアンなら私がピンチに成っても巧く、器用に援護してくれると思っていた。

「だから、私がやったのよ。私が適任で、私がこれから率いるに足る事を納得する為に」

 ジャンヌ・ダルク・ドゥ、それが私の役目で役割。

 フランスから迷宮を駆逐する旗印。

 フランスの国民を鼓舞する聖女の代役。

 それを私自身が納得する為に前に出る必要がある。

「君は、どこの鉄の女なんだか」

 ヨアンが呆れた顔をして溜息を吐く。

 ヨアンの言葉にイラッと来るものがある。

「ねえヨアン? なんでそこでイギリスの元首相が出てくるのかしら?」

 歴史の授業で学んだ逸話を思い出してヨアンの言葉の意味を理解して眉を歪める。

「え、いや、タフな女性だな、と」

「なに? 私は「ここには私以外に男は居ないのか?」と叫べば良いのかしら?」

 ヨアンの珍しい失言を(つつ)き回して揶揄(からか)ってみる。

「ごめん、軽い冗談だったんだ」

「よろしい。さあ、次行きましょう」

 ヨアンとの軽い冗談のやり取りをしてる間に呼吸も脈拍も落ち着いてきた。

 蛍石を回収してから、ヨアンを促して奥に進んで行く。


 この時間帯は買い取り所が閉まっている事も有って、他にシーカーも居ないしあまり神経を使わないで良いのがありがたい。

 今までもスクレットだと思って身構えたら、帰還途中のシーカーだった事なんて枚挙(まいきょ)(いとま)がない。

 結局、迷宮は精神的な疲労が多いという事になる。

 まあ、牙持つ狼も怖いし、動く骸骨はもっと恐いのだから仕方が無い。

 時間的にも後一時間程で切り上げるべき時間帯に成ってきた。

 分岐の所で、ケミカルライトを設置して奥に進む。

 少し歩いた所でスクレットの群れに遭遇する。

 今度は多くは無い様だ。

 見た感じ四体だけだった。

「ヨアン、どうする? ヨアンもやってみる? やっとく? やろうか?」

「了解、ジャンヌの命ずるままに」

 ウィンクと茶目っ気たっぷりに返されたと思ったらヨアンは駆け出してスクレットの群れに飛び込んだ。


 左腕の盾を振るって薙ぎ倒す様にしてスクレットの群れを分断した。右手の戦鎚で正面のスクレットの頭蓋骨を砕く。腰を捻って左脚で、左側でバランスを崩していたスクレットを更に横倒しに転ばせる。右側のスクレットをすくい上げる様に振るった戦鎚で顎から頭頂部にかけて一撃で打ち砕いた。倒れて立ち上がろうとするスクレットの背骨を踏み砕きながら正面のスクレットに戦鎚を振り下ろし、最後に地面でもがくスクレットの頭蓋骨を砕いて戦闘を終えた。

 ヨアンの動きは私とは違って、まさしく軍人の格闘術をベースにした物だと納得する。

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