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第十三話

 地上に出て、ヘルメットを脱いで纏めていた髪を解く。

 新鮮な空気と風が湿った髪を揺らして心地良い。

「疲れたけど、今日はかなりの数駆除出来たと思うんだけど、皆はどう?」

 一息吐いてから皆に聞くと同じくヘルメットを外したブノワが愛嬌たっぷりに笑う。

「こんなに駆除が進むとは思いませんでした、達成感に近い物を感じますね」

「この戦鎚、確かに凄いな。これならもっと奥まで行けると思う」

 カンタンも納得したのか、戦鎚を撫でながら笑った。

「いや、来週には甲冑も完成しているはずだから、もっと突っ込める様に成る筈だ」

「でも、重たくない? 重過ぎると今日みたいには動けないよ?」

 ヨアンの言葉に一抹の不安を感じて尋ねる。

「いや、かなり薄いチタンプレートで作っているし、内側には衝撃吸収材を張るから硬くて、軽くて、ダメージも軽減出来る甲冑が出来る筈だよ」

 チタンとは言え金属甲冑で、見栄えも考えたら全身甲冑に成るだろうし、本当にそんなのが出来るのか疑わしくも有るけれど。

 取り敢えず、来週まで状況は保留として蛍石を売りに行く事にする。

 

 買い取り所で蛍石を全て売却する。

 個数として延べ七十九個、二千三百七十ユーロに成った。

 カンタンが金額を聞いて口笛を吹く。

頭割りして五百九十二ユーロを稼いだのは自分でも驚いている。

 昨日よりも一グループ多く駆除出来たと言う事に成る。

 金額が増えた事よりも昨日よりも体力的に余裕が有る事の方が重要に思う。

 戦闘数が増えたのに余裕が有るという事は戦闘継続力が増したという事に成る。

 つまり、着実に差を詰められている事実が嬉しい。

 このまま続けていけばいずれマツーリィに追い付ける手応えが感じられた気がする。

「今日もお疲れ様、また来週頑張りましょうね」

「お疲れ様、週末には鎧も出来上がってるはずだから連絡するよ」

「この調子でやっていこうや」

「また週末に、励みましょう」

 互いに労いながら今日の駆除活動を終えた。

 買い取り所を出た所で解散し部屋に帰宅する。

 疲労感は有るけれど、満足感の方が勝っているのか足取りも軽い。

 弾む様にして階段を上りアパルトマンに入る。


「疲れた~」

 そう口に出して真っ直ぐに浴室に向かう。

 プロテクターとツナギに付着した埃と汗をシャワーで洗い流してラックに掛けて干してバスタブにお湯を溜めておく。

 その間に夕食の準備をする為にキッチンに移動する。

 空腹に勝てずに朝食用のバゲットを軽く焼いてレバーペーストを塗って手早く済ませてしまう。

 洗い物を済ませてから入浴をしながら右腕と肩をマッサージする。

「やっぱり重さが変わると疲れるよね、でも……視界には捉えた」

 バスタブに後頭部を乗せて溜息交じりに呟いた。

 重さや重心が違うとやはり疲労は蓄積するらしい。

 思い返すとステンレスバトンからハンマーに変えた時も似た事をぼやいた記憶が有る。

 それでもそんな疲労感すら今は心地良い。

「私の意地、見せてあげるんだから」

 口元が緩むのを自覚しつつ髪と体を拭いて早々にベッドに飛び込んで、スイッチが切れる様に眠りに就いた。


 週明け、大学が終わると帰宅をし、夜まで迷宮に籠る日々を過ごした。

 早く銀の戦鎚を手に馴染ませる為に、そして戦闘に慣れる為に。

 金曜日、迷宮に入ろうとアパルトマンで用意をしている所にヨアンから連絡が有った。

「やあ、ジャンヌ。今良いかな? 甲冑が出来た連絡だよ」

「本当に予告通りね、それで? どこで待ち合わせ?」

 逸る気持ちが私を早口にさせる。

 そんな私の声に苦笑した様にヨアンが応じた。

「買い取り所で待ち合わせよう、甲冑の着用は応接室を借りれる様に手配しておくよ」

「分かったわ、あ~、十分後には付けると思う」

「早いね、先に行って待っててくれ、三十分以内には付けると思う」

 そんなやり取りをしている間にリュックにハンマーを詰めて担いで部屋を出る。

「ジャンヌ・ダルク・ドゥ(二世)、か……。色々早まったよね、やっぱり」

 マツーリィの後塵を拝するのが嫌で意地に成った自覚は有るし、ライバル視してバタバタしていると自分でも思う。

 ライバル視? そこで一連の流れを反芻する。

「あれ? マツーリィって別に私の事、挑発して無い様な……」

 舗装された横断歩道を渡りながらその事に思い至り、足が止まる。

 視線を彷徨わせて落ち着きなく手を躍らせていると信号待ちをしていた車にクラクションを鳴らされる。

 ビックリして急いで歩道を渡り切ってパリ地下墳墓を囲むフェンスに手を掛ける。

「あれ? ワタシもしかしたら、凄く恥ずかしい事して、た……?」

 自分の言動を思い返して見当違いな逆恨みと対抗心を燃やしていた事に気が付いた。

 その、一人で空回りしていた事に今更気が付いて、顔が熱くなるのが分かる。

 あまりの恥ずかしさに周囲の人影が気になって、小走りで買い取り所の建物に飛び込んだ。

 

受付に声を掛けて応接室に入る許可を貰い階段を上がり応接室に入る。

 無人の部屋のソファーに腰掛けて一息吐く。

 呼吸が整った所で再び猛烈な羞恥心が沸き起こりジタバタと身を躍らせる。

「良く考えたら、と言うか良く考えなくても、彼はフランスの為に戦いに来てくれた恩人なのに。勘違いして一方的に対抗意識を燃やしてるって、私どうなの? 色々と駄目なんじゃない?」

 どれくらいの時間悶絶していたのか、ドアがノックされてヨアンは入って来た。

 気が付くのが遅れて手足をバタつかせていた所を目撃されて固まる。

「あ~、何かあったかい?」

 気まずそうに笑うヨアンに余計に気まずさを感じて萎れる様に手足を縮める。

「何でも無い、自分の未熟さを思い知ってた所……」

 ヨアンの顔を見れず、俯きながらそうぼやく。

「うん、ジャンヌはマドマゼル(お嬢さん)だからね、仕方が無いんじゃないかな?」

 ヨアンの優しいフォローがむしろ痛かった。

 打ちひしがれた様に顔を手で覆って落ち込んでいるとヨアンがテーブルの上に何か硬い物を置いていく音が耳に届く。

 一度深呼吸をして意を決してから顔を上げると鈍い銀色の甲冑のパーツが並べられている。

 二つの大きなリュックから次々に金属の塊が出てくる。

「これが言っていたチタン製の甲冑?」

「そう、軽くて堅い、衝撃にも強い特注、ジャンヌ隊専用の軽甲冑だ」

 そう笑うヨアンの顔から視線を甲冑に移して、手に取ってみる。

 籠手を持ってみると驚くほど軽い、今まで使っていたプロテクターより若干重たい位で支障が出ない範囲で収まるかも知れないと思った。

「軽いだろ? 全部で八㎏にまで抑えられているんだ、これならプロテクターより少し重たい位で済むし、マツーリィの言葉じゃないけど積極性が出る事も考えたら前よりも楽に成るかも知れないと俺は思ってる」

 確かにヨアンの言う通り、これなら囲まれても有る程度精神的に余裕が持てるならがんがん前に出られる様に成るかも知れない。

「それとこれが専用の盾だ、左の籠手と連結させられる」

 見せられた盾は幅三十cm、縦が四十五cm程の小ぶりの盾だった。

 そして盾の表面には百合と剣と王冠の紋章が彫られていた。

「紋章はジャンヌ・ダルクの紋章だ」

 衝撃で塗装が落ちない様に、未塗装浮彫加工された紋章を見つめる。

「ジャンヌ・ダルク・ドゥ……、そうよね、そうよ、頑張らなくちゃ」

「後悔してるかい? ドゥに成る事を」

 私の呟きを聞き拾ってヨアンが訊ねてくる。


ヨアンの問いに苦笑を浮かべて頷く。

「正直ね、少し早まったって思ってる。頭に血が上っていたと思う。あの時冷静だったら多分頷かなかったと思うんだ……」

「いや、君はどうあろうと結局ドゥに成る事を選んだと思うよ?」

「え? なんで?」

「それはね、君が勇敢な女性だからだよ。覚えているかい? 初めてスクレットが出現した時、君だけが戦う事を選んだ。恐れを抱きながら、歯を食いしばって踏み止まれる人なんだ。だから君は結局その立場に立ったと思うよ。俺達は君を尊敬しているんだ」

 ヨアンの称賛の言葉に頬が熱を持つのを感じる。

 口を開くけれど言葉が出て来ない自分がもどかしかった。

 あの無謀な行動がまさか三人からはそんな高評価を得ているとは思いもしなかった。

 困る、ヨアンの真っ直ぐな評価がくすぐったいし照れ臭い。

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