第一次接近遭遇
「あなたが元凶?」
少女はエミリアを真っすぐ見据え問いかけてきた。その言葉は共通言語であり、異世界では使われていないはずである。だが、そんな疑問は後回しだと、エミリアは必至に頭を回転させた。
(元凶?もしかしてこの子…)
だとすればこの子はこの世界に意図的に渡ってきた事になる。意図的にそれが行われるとなると全ての前提が覆ってしまう。
「えっと、意味が分かりかねるのですが…」
エミリアが惚けてみせると、少女は呆れと言わんばかりに大袈裟にため息をついた。一歩ずつ静かな足取りでエミリアに近づいてきた。その静かな圧力に押されエミリアは同じ距離を保つように一歩ずつ後退った。
やがて壁際まで追い詰められた。
少女はエミリアの目の前で足を止め、おもむろにエミリアの胸倉をつかみあげた。
「ほかの子達はどこにいるの?」
この言葉でエミリアの疑念は確信に変わった。この状況こそが自分たちが恐れていた事態であるのだから。
つまるところ自業自得である。自分たちが神の名を騙り行った行為への責任を取るべき時なのであろう。
「ほかの七人の勇者様達は各国の王家が保護しています」
「七人?こっちの観測では百人以上連れて来られている筈なんだけど?その中には私の友達2人も含まれている」
ギリッと少女の手に力が籠る。壁に押し付けられた体がズルズルと上に持ち上げられる。
エミリアと変わらない細腕からは想像できないような力で体を固定され身動きが取れない。
「エミリア様から…離れて下さい!!」
遅れてやってきた宮廷術師のミーシャが息を切らしながら、攻勢術式を展開させ、少女を威嚇する。
少女は大きく息を吐くとエミリアから手を放した。エミリアはその場に崩れ落ちるように倒れこむ。
☆★☆
昨日の今日で異世界までの出張仕事。
奈津芭は正直眠かった。
だからこそさっさと目的を果たす為目の前の少女の胸倉を掴み脅しをかけてみたが、帰ってきた反応は予想とは違うものだった。
(罪悪感?後悔してる?)
まぁ、だったら好都合。さっさとあの子達の居場所を聞いて、回収してさっさと帰る。
だが、事態は思っていたより深刻だった。
「ほかの子達はどこにいるの?」
「ほかの七人の勇者様達は各国の王家が保護しています」
奈津芭は眉をひそめる。明らかに数が合わない。だが自分が視た限り、あの子達がここにいるのは間違い無い筈だ。
「七人?こっちの観測では百人以上連れて来られている筈なんだけど?その中には私の友達二人が含まれてる」
奈津芭の追求にエミリアは顔を青くした。脳裏に浮かぶのは最悪の可能性。
(もしそうであるのなら…)
感情の高ぶりと共に、エミリアを掴む手に力がこもる。
「エミリア様から…離れて下さい!!」
あらたに現れた茶髪の少女の言葉に奈津芭はハッとした。無抵抗の少女の胸倉掴んで脅しつける。この構図はあまりよろしくない。そう思い奈津芭はエミリアの拘束を解いた。
「悪かったわ。少し頭に血が上った」
奈津芭はそう言うと両手を上げて降参のポーズを取る。
この子達からは悪意は感じ取れない。状況的には黒だろうが話くらいなら聞いてもいいだろう。
(まぁ、どちらにせよ、早く涼と美海ちゃんを見つけないとな)