柊 日向
久しぶりに書き始めました
奈津芭が召喚された日より十日前。
ルークブリッツ法国内にある教会騎士団の修練場に三人の勇者がいた。
その内二人の少年と少女が相対していた。
傍らの長い黒髪の少女がロングソードを構えながら、心のなかでゲンナリとした心情を愚痴った。
(面倒くさい…)
海洋国家ディード。かの国勇者として召喚された少女。柊日向。
夏休み剣道部の部活動に向かう途中に召喚された。
よく分からない女神と名乗る少女により妙な力を授けられ、その力を使い魔王を倒せという。日向としては帰りたいだけなのだが、本当か嘘か、世界を分断している結界の先にある、奪われた領地とやらにしか、帰還用の召喚陣が無いという。
甚だ不本意であるが、かといって他の選択肢が無いため日向は戦う事を承諾した。
(まるで見世物ね)
修練場は二階建てで上には観覧用の設えられている。
そこには様々な国のお偉いさんがいて、日向達、勇者の修練を眺めていた。
「さっさと掛かってこい」
日向に相対する金髪の少年が威圧するように、闘気を放出する。
傭兵国家アレスに召喚された勇者。当代の勇者最強と評されている笹塚光輝。
日向に言わせれば只の戦闘狂だ。
彼の強みは圧倒的な力の出力と保有量。
そして、多彩な攻撃スキルを保有している。
ようするにシンプルに強い訳だ。日向としては技量では勝っていると自負しているが、力の押し合いでは勝負にならない。しかし光輝としてはそれが気にくわなかったようだ。
たんなる合同訓練が、気づけば光輝の提案による一騎打ちの模擬戦をする事になった。
勇者に授けられた虎の子である聖剣を使用しないこと以外何でもありのルール。
迷惑な事に残り一人の勇者様のお陰でどんなケガでも死ななければ治療できるらしいので相手は殺す気で攻撃を振るってくる。
「来ないのなら此方からいくぞ」
光輝は周囲に燃えさかる球体を無数に展開、日向の動きを牽制し背後の死角から強襲する。日向はそれをロングソードで弾き飛ばす。その攻撃が絶え間なく続く。
日向は息を止め、身体強化を全開にする。いちいち剣ではじき返していては対応しきれないと回避に全力を注ぐ。そこに間髪入れず光輝が一瞬で間合いを詰め斬りかかる。
「ぐっ…」
剣でその斬撃を受けるが、あまりの馬鹿力に骨が軋むのを感じる。鍔迫り合いをしながら、日向は一歩、二歩と押し負け後退する。再び背後から迫る無数火球。
日向は光輝が押し込もうとする力を利用して全力で背後に飛び退きそれを回避。
「チョロチョロとよく動く。まったくウザったいな」
優勢ではあるが、思うように攻撃が当たらず光輝は苛立ちの声をあげる。
日向は滴る汗を感じながら必死に呼吸を整える。
(しんどいな…)