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無断召喚 巫女と姫様の奮闘記  作者: 紅吉
女神の受難
18/24

空から女の子が…

 教会との会談から一週間後、勇者の国民へのお披露目など様々な行事を終え、取りあえず一段落。奈都芭は面倒くさそうにはしていたが、行事を無難こなしてくれた。しかし、彼女は自分を普通の学生と言っていたが、その割にはこなれているようにエミリアは感じた。

 そして今日は、彼女が体を動かしたいと言うことで騎士団の修練場にやって来たのだが、


(強いだろうと思っていたがこれ程までとは…)


目の前で恰幅の良い男性と模擬戦をしている奈都芭を見ながら、エミリアは改めて驚く。

 彼はこの国で最強と謳われる我が国の騎士団団長のクライヴである。

 刃引きされているとはいえ、彼のハルバードを奈都芭は真正面から拳で打ち落とす。

 引いたら負けと言わんばかりに二人は向き合った状態で目にも止まらぬ攻防を繰り広げる。

 互角に見える戦いだが、ジリジリとクライヴが後ずさる。

 その刹那、勝負は決する。

 クライヴの渾身の上段の斬撃を拳でかち上げると、空いたボディに回し蹴り決める。

 クライヴは飛ばされ、背中から地面に倒れ込み勝負あり。

 周りを見渡すと死屍累々。奈都芭に倒された団員達が倒れていた。


「うん。いいね。中々に鍛えられている」


 そう言い、奈都芭はクライヴに近づくと手を差し出す。


「流石は勇者さまです。お見それしました」


クライヴはその手を受け取り、立ち上がる。


「騎士団長が…」


「手も足もでなかった…」


見学していた兵士達から驚きの声をあげる。いかに勇者といえど、見た目は華奢な女の子。そんな彼女が屈強な男達を正面から力業でねじ伏せるのだから正直違和感しかない。


「いやはや、恐ろしいですな。徒手でこれ程の強さならば神器を手にすればどれ程の強さなのか想像できません」


「借り物の力で威張っても意味ないでしょ?本当に最後に頼れるのは自分自身だしね。加護だのスキルだの他力本願の連中なんて怖くないしね」


「ははははっ。全くです。若い連中はそこを勘違いしている輩が多い。スキルが絶対的な強さのモノサシと勘違いしている」


「一から鍛え直します。私を含め出直しですな」


「まっ、ガンバんなさい」


 頭を下げるクライヴ。そして、もう一度ガッチリと力強い握手を交わす。

 そんな、二人に周囲からは惜しみない賞賛の拍手が巻き起こった。



「はい、どうぞ」


 此方のほうに戻ってきた奈都芭にエミリアはタオルを手渡す。


「ありがと」


「異世界の人の強さは規格外ですね。彼らは我が国の精鋭だったのですが…」


 神器を手に取ろうともしない奈都芭。エミリアはそんな奈都芭に戦いは甘くないと伝えるつもりでここに連れてきたのが彼女の強さは自分の予想を超えていた。

勇者の力とは究極的には神器によるものだ。それが無ければ勇者は強いスキルを持つこの世界の人間と決定的な差は無い…筈だったのだが。

 

「何言ってるの。彼らはとても強いわよ。これからの世界には必要な存在よ」


 対する奈都芭は自分が圧倒した騎士団の事を褒め称える。


「これから?」


「そっ、これから」


含みのあるその言葉は気になったが、そこを追求すると面倒ごとが増えそうなのでスルーする事に決めた。


「しかし、安心しました」


「なにが?」


「その…帝国にすぐにでも攻め込んでしまうのではないかと心配していたので」


 正直、明日にも全面戦争が始まるのではと、戦々恐々していたのだが今すぐに事を起こすつもりは無いと分かってホッとしていた。


「流石に体を休めないとね。正直体中がガッタガタだからね」


「そうは見えなかったのですが…」


 騎士団長のクライヴと正面から打ちあって息一つ切らしていない様子からも想像でき無い話である。


「強がってるけどね。正直、今の私は二割の力も出せない」


「嘘…ですよね」


誇張や謙遜を言っている雰囲気は無い。淡々と事実を伝えている。そんな様子だ。


「弱みを言いふらされても困るけど、エミリアには伝えておかないとね。私なりの誠意のつもり」


「色々と頭が痛くなってきました」


「だったら昼ご飯にしようよ。お腹が空くと碌な考えが浮かばないよ」


「そうですね。なら今日は外で食べませんか?」


「いいわね。今日は天気もいいし楽しそう」



王城の裏手にある丘の上にエミリアと奈都芭は立っていた。


「ここ。私のお気に入りなんです」


ここからは王城と城下町が一望出来る。ここからの眺めが小さい頃からエミリアあ好きだった。

普段は騎士団の演習場として使われている為一般人の立ち入りは禁止されている。

 訓練が無いときはとても静かで、落ち込んだときなどにはよくここに来ていた。

 

「こういう長閑なのは私も嫌いじゃ無いよ」


奈都芭は王都を眺めた後、背後を振り返る。


「あれが結界か」


「そうです」


 王都から百キロ先の地平の先には人界と魔界を分かつ結界が空まで伸びていた。


「素朴な疑問なんだけど、地理的にあの結界が無くなったらこの国は困るんじゃないの?」


「困りますね。結界があるから其方側の防衛を気にしなくて済んでいるのは事実です。本当に結界が壊されるのなら、結界に面しているこの国は最前線になる可能性がありますから」


 だからこそ、他国からちょっかいをかけれれている事実がある。

 ここが緩衝地帯になっているため、他国は勇者召喚に積極的な訳だ。

 正直、結界破壊は我が国にとってはプラスになる事は無い。

 この先、自分の立ち回り次第でこの国の明暗が分かれるだろう。

 劇薬を通り越して爆弾のような彼女との関係も重要になる。


 など、色々と思案を巡らせるエミリア。ふと、奈都芭の方に目をやると彼女は空をじっと凝視していた。


「……思ったより早かったわね」


 奈都芭の目線を追い空をみる。しかし、そこには何も無い。


「どうしました?一体なにが…」


「ちょっと離れてくれるかな」


 空を眺めたまま、奈都芭に離れるように言われる。その表情があまりに真剣だったので急いで後ろに走る。その時だった極大の稲妻が空から降り注ぐ。

 それは、奈都芭に真っ直ぐに降り注いだ。


「奈都芭!!」


「洒落臭いっての」


 その時、エミリアは信じられないものをみた。降り注いだ稲妻を奈都芭は蹴り返したのだ。

 稲妻は時を巻き戻すように空に昇って行き、上空に出現した何かに当たる。

 そして、それは真っ直ぐ此方に向かい落ちてくる。

 落下してくるその物体に目を凝らす。すると、それが人の形をしている事が分かった。


(女の人?)


 近づくにつれ明らかになる輪郭。エミリアが落ちてくる存在が女性だと認識した瞬間、その体が輝きだす。

 それと同時、上空にもう一つの光が輝いた。


「今度は何!?」


 現れたのは黒髪の少女だった。次の瞬間少女の姿は消えていた――否、目の前に現れたのだ。空から落ちてきた蒼色の髪の女性を地面に叩き付け、足を使い組み伏せいていた。

 よく見ると二人とも外見はボロボロで、激闘の後だ窺い知ることが出来る。

 特に黒髪の少女の方は両腕共に欠損している。しかし、明暗は黒髪の少女の方に分かれたようだ。


「ぐっ」


 踏みつけられた蒼色の髪の女性が微かに動きを見せると、黒髪の少女は踏みつけその動きを制する。


「往生際が悪い」


 その言葉とともに、組み伏せられた女性を地面から出現した鎖が雁字搦めに、足下から口元までビッシリと拘束する。拘束された女性がピクリとも動かなくなると、黒髪の少女が此方を見た後、奈都芭を見て口を開く。


「手間をかけました」


「いやいや、流石だよ。グランシアちゃん」


 黒髪の少女、グランシアは無愛想な表情で奈都芭に向かい頭を下げ、会釈をする。


「というかよかったの?コッチに来て」


「問題ありません。美奈芭が綾織のご当主に引き合わせてくれましたから。基本的な整備はしてもらいました。現状でも38%の出力で戦闘が可能です。腕も出来次第に届けてもらう算段になってます」


 二人が親しそうに会話を始めたのでポカンとするエミリア。

 そんなエミリアの様子など意に返さず二人は会話を続ける。


「だね。まっ、第一関門突破かな?」


「いえ、すいません。ゲートの確保には失敗しました」


グランシアは地面で横たわる女性の上に足を置き溜息を吐く。


「『これ』が接続空間を自壊させてしまったので」


 地面に横たわる女性。その容姿にエミリアは既視感を覚える。

 端正な顔立ちに、蒼色の長い髪。服装などにとても見覚えがある。


「そうそうは、うまくはいかないか…まっ、お互い万全じゃないしね」


「あの…奈都芭。その方はお知り合いですか?」


「そうそう。仲間」


「じゃあ、此方の方は?」


 そう言うと、今度は地面に横たわる女性が此方に向かい何かを言おうとしている。

 嫌な予感がするが、無視する訳にはいかないだろう。


「その、この方とお話してもよろしいですか?」


 グランシアは奈都芭を見る。


「いいわ。口の拘束だけ解いてあげて」


「分かった」


 グランシアがそう言うと、鎖が生き物のように動きだし彼女の頭を覆っていた鎖が解けていく。


「エイル様…ですよね」


 エミリアは確認の意味を込め、そう問いかける。

 城の壁に描かれた女神様の肖像画。この女性はそこに描かれた女神様にあまりにも似すぎていた。

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