女神vs絡繰少女
目の前の黒髪の少女を見るエイル。即座に戦闘態勢に移行。体内の神気を巡らせる。
「貴方、何者ですか?」
いつでも対応出来るように警戒しつつ声をかける。すると少女は、道でも聞くような気安さで声をかけてきた。
「ここの管理者は何処にいる?貴方以外の反応が無い」
「私がこの神域の管理者です」
すると、少女は訝しげな表情を浮かべる。
「下位の天使の貴方がか?」
その言葉にエイルの眉がピクリと動く。
「私は女神です。この地の管理を任されています」
「まぁ、そんな些事はどうでもいい。管理者だと言うのなら身柄を抑える」
目の前の少女の姿が揺らぐ。次の瞬間、彼女の姿は消えていた。
(何処に…?)
気配を探ろうとした刹那、姿を現した少女の右ストレートが顔面にめり込む。その衝撃でエイルは100メートル程、地面をバウンドしながら飛ばされる。
(何…一体なにが起きたの?)
突如陥った窮地にエイルの思考は混乱する。
腐っても女神であるエイル。この程度で戦闘不能になる程ヤワでは無いが不死身という訳では無い。
それに攻撃を受けて確信したが、この子は自分よりも強い。
近接戦闘はもっての他、普通の攻勢術式では歯が立たないだろう。
(神罰術式なら…)
頭に巡る自らの切り札。間髪入れず突っ込んでくる少女の攻撃を展開した防壁で受け止める。
(でも、ここで使うには威力が強すぎる)
躊躇っている間に障壁に亀裂が入る。もって後数秒。迷う時間は無い。
「いいでしょう。全てを焼き尽くす神の炎!受け手みなさい」
叫びと共に放たれるエイルの切り札。
自らが展開したシールドごと、少女に向かい放たれたのはサーカーボールほどの大きさの光球。
収束した術核が少女に触れた直後、空間は白い閃光に包まれる。
一瞬の静寂。刹那の後訪れたのは爆縮により高められたエネルギーの解放。
純粋な破壊の奔流。
頑強に造られた神域が歪み、震える。
(なんとか…凌ぐ)
自分の防御力ではこの爆発を真正面から受け止めるのは不可能。
なので、自身を球状の障壁に包み、爆発に逆らわず、吹き飛ばされる事でなんとか受け流す。
一キロ程離れた地点になんとか着地し、障壁を解除。
立ち上がると爆心地に目を向ける。
(これで…駄目なら)
炎の巻き上がる中、悠然と立ち上がる影を目に捉え、エイルは歯を噛みしめる。
少女と目が合った瞬間、エイルは少女の姿を見失っていた。
「こっちですよ」
背後からする声、エイルは慌てて振り返ると、そこには少女が立っていた。
その出で立ちはボロボロで、一見すれば満身創痍。先ほどの一撃によってだろう、その両腕は二の腕から先が無くなっていた。
しかし、相対していれば分かる。先ほどの攻撃が、有効打になり得ていないと。
ここに来て、ようやく気づく。この少女は人間では無いと…
「貴方、機械天使だったの?」
少女の失った腕の欠損部分から覗くのは、生身の体では無く、機械の体。
そして、これほどの力を持つ存在で唯一心当たりがあるのが機械天使。
神をも凌ぐ力を持つ対魔神用の神造兵器。
「心外ですね。あんなガラクタと一緒にされるとは。私はただ、奈都芭の手伝いに来ただけです」
「奈都芭?あのイレギュラーの事?」
「そうですね。彼女はイレギュラーです。とびきりのね」
少女は呆れたように溜息を吐く。そんな生々しい仕草からも普通の人間と見分けがつかない。
天界の機械天使をガラクタと称する程の実力を本当に秘めているのなら、どうやってもエイルに勝ち目は無い。
そして、柄乃崎奈都芭。あのイレギュラーと仲間というのならなんとかしなければならない。
「投降しなさい。貴方では私に勝てないというのは分かった筈です」
「だとしても、それは出来ない」
切り札は潰えた。後、残っているのは自分自身を賭ける事。
「私は私の存在を賭けて貴方達を倒す」
己が存在を確立する為に。