査問官グレミア・ラングラーの寸評
会談を終え、グレミアとシレーヌは帰路についていた。
微かに揺れる馬車の中、グレミアはクライスターの王都外苑の風景を眺めていた。
よく整備されていると関心する。エミリアに送った賞賛はお世辞では無く彼の本心だった。強かに振る舞うが非道では無い。そんな健気な様を彼は好ましく思えた。
しかし、それはあくまで彼個人としての感想だ。教会の査問官の立場としては別だ。
「勇者召喚の失敗を糾弾する筈だったのだけどね」
「ふふっ。悪巧みをするからです。グレミア兄様もお爺さまも」
悪戯っぽい笑みを浮かべるシレーヌ。会談では澄ましていたが、本来の彼女は悪戯好きのお転婆娘。振る舞いかたを心得ているだけで普段は猫を被っている。従兄弟であるグレミアにしても、どうも読み切れない部分がある。
「これで盤面はひっくり返りましたね」
「お前はそう見るか」
「ナツハ様。あの方は底がしれないです。少なくとも私如きが推し量れる方では無いことは確かです。私のこの目には何も見えませんでしたから」
柄乃崎奈都芭。彼女が召喚者である事は間違いない。しかし、今まで会った召喚者達とは根本的に何かが違う。シレーヌの持つ邪眼「終の眼」は相手の可能性を見透かす力。
それが通じない相手がいるという事実は教会にとっては大きな問題である。
「規格外だね。いい意味でも。悪い意味でも」
「他の勇者様方と比べたら?」
「単純な戦闘能力で言えば笹塚 光輝様が一番だ」
「でも、笹塚様は――」
「そうだな。柊様に敗れた。模擬戦とはいえ、聖剣を召喚した相手に訓練用の武器で圧倒した。柊 日向様。あの方も得体の知れない所がある」
溜息を吐くグレミア。それとは対照的にシレーヌの表情は明るく嬉しそうにしていた。
「お前は楽しそうだな」
「ええ。楽しいです。私にとって「分からない」は、とっても楽しい事なんです」
「ある程度は自重しろよ。でなければ俺もお前を庇えない」
「問題ないですよ」
「何故だ?」
シレーヌはVサインを示し、キメ顔で宣言する
「知っていますかグレミア兄様。正義は必ず勝つのです」
どういう意味かは分からないが、面倒な事になるのは間違いないだろう。
グレミアはもう一度、大きく溜息を吐いた。