王様と勇者様、教会祭司と腹の探り合い
奈都芭が召喚された翌日の正午、エミリアは奈都芭と共に教会から訪れた一団との会談に臨んでいた。
クライスター王国側はエミリアと奈都芭。
教会側は金髪の若い男と、その傍らにはシスター服を纏った金髪の少女が控えていた。
召喚されて間もなく、戸惑いの抜けない召喚者の面談に見目麗しい人間を寄越してくる当たり、教会の考えが透けて見える。
(それに、この二人は確か…)
また面倒くさい連中がやってきたなとエミリアは内心で悪態をついた。
この二人は教会のトップである現教皇の孫であり、従兄弟同士。
教会の保有する最高戦力である十二使徒の一員だった筈だ。
もし奈都芭が昨日のように激昂して、この二人を相手に大立ち回りを行うような事があろうものなら、よくて城が壊滅。悪ければ都市まるごと更地になることも有りうる。
エミリアは横目で奈都芭を見る。彼女は何事もないように落ち着いた様子で、静かに紅茶に口をつけていた。とりあえず喧嘩腰でないことにほっと胸をなで下ろす。
「お初にお目にかかります。私は教会で司祭を務めているグレミアと申します」
キラキラと光り輝いていると錯覚するほどの爽やかに自己紹介をする教会の使者。
エミリアも負けじと外面をセットし、優雅に女王然と振る舞う。
「今回は我々の無理な願いを聞き入れていただいてありがとうございます」
「聖騎士グレミア様の武勇に聖女シレーヌ様のご活躍は私も聞き及んでおります」
目の前に座るグレミア。そして彼の後ろに立って控えるシレーヌに目配せをする。
シレーヌは目があると、会釈をするだけで自ら前に出るつもりはないようだった。
「いえ、私共など教会の末席を汚す若輩者に過ぎません。私共の方こそエミリア王女の治政の素晴らしさは伝え聞いてます」
散々圧力を吹っ掛けておいて、いけしゃあしゃあと思うが取り乱したら負けだと、余裕の笑みは崩さない。
社交辞令が終わった所で本題とばかりにグレミアは奈都芭い目を向ける。
「あなたが勇者様ですね。お名前を伺ってもよろしいですか」
「柄乃崎奈都芭です。大体の事情はエミリアから聞いています」
そういい、奈都芭はエミリアに向けニッコリと笑みを浮かべる。
それを受け、エミリアも微笑み返す。
(誰ですかこの人?)
と、心の中でツッコミを入れるほどの豹変ぶりである。
「ナツハ様…もしかして、貴方はミウ様が言っていた」
「美海ちゃんがどこにいるか知っているの?」
奈都芭は身を乗り出し、グレミアに詰め寄る。
「奈都芭。落ち着いてください」
エミリアの制止に、奈都芭は大きく息を吐きソファーに腰を下ろした。
「美海ちゃんから私の事を聞いたの?」
グレミアは後ろに控えるシレーヌに目配せをする。シレーヌは小さくうなずくと口を開いた。
「私がミウ様から伺いました。柄乃崎奈都芭。そして――」
「木崎涼…でしょ?」
「はい。その二人がこの世界に来ているのであれば、もし会うことがあれば教えてほしいと頼まれました」
「そうか。美海ちゃんにはすぐ会えるの?」
シレーヌはグレミアの方を見る。今度はグレミアが頷き説明を始めた。
「彼女は今、ルークブリッツの庇護下にあります。働きかけてはみますがすぐにとは…」
「なら、いつ頃会えますか?」
「二週間後、教会で勇者様を招いての晩餐会を予定してます。出席して頂けるのなら、その時には必ず」
奈都芭は顎に手を当てて考える。
「二週間…か。ルークブリッツって所にいて美海ちゃんに何かあるって事は無いのよね?」
「それはあり得ません。かの国は我らの信仰の拠点でもあります。なので、他の国の中でもルークブリッツは特に勇者様を手厚く持てなしています。我らにとって勇者様とは文字通り神意の代弁者であり、神威の行使者ですか」
「分かった。まぁ、とりあえず納得した。涼について分かっている事は?」
「いえ、我々が面談した勇者様の中にはおられませんでした。ですが、もしもその方も此方に渡っているのだとすれば恐らくは帝国にいるのではないかと」
その言葉にエミリアは顔をしかめた。この世界の人間なら皆同じような態度を示すだろう。ある意味では魔族より厄介な相手である。