世界に咎を蒔く者達
「魔力を持ってたら魔族ねぇ…結局エミリアさんも天部の連中の価値観に染まってる訳か」
「天部の…価値観に染まってる?どういう意味ですか?」
天部という言葉が何を意味するのか、字面から想像は出来るが正確な意味は分からない。
エミリアが尋ねると奈都芭は面倒くさそうため息を吐く。
「言ったところで何も変わらないだろうからね~。教えてあげない…というか知らないほうがいいと思うけどな」
面倒くさそうにため息を吐く奈都芭。
「それでどうする?私が敵だってのなら、ここでやり合っても一向に構わないよ」
奈都芭は一転して、闘争心を剥き出しにするように嗜虐的な笑みを浮かべる。
感情に呼応するように纏う炎の激しさが増していく。
「取り乱してすいません。ですが協力をお願いしたいという考えに変わりはありません」
「へぇ。そう…そうなんだ」
エミリアの言葉に奈都芭は意外そうな表情を浮かべる。
そんな奈都芭の顔をエミリアは正面から堂々と凜とした表情で見返す。
(怖いです。うん、私今日死ぬかもね)
キメ顔の外見とは裏腹に、内心は焦りを通り越し、諦めの境地に達しようとしていた。
しかし、外見だけでもそう見せないのは曲がりなりにも女王としてのなけなし矜恃である。一歩ずつ歩み寄る死神の足音――もとい、一歩ずつ近づいてくる奈都芭。燃えさかる魔の炎に身を包み歩みを進めるその姿は魔王そのものと言っても差し支え無い。
奈都芭はエミリアの前に立ち止まると、満面の笑みでエミリアに抱きついた。
「それじゃあ試してみましょうか。その言葉が本当かどうか?」
一瞬にしてエミリアの体は魔炎に包まれる。
思考が沸騰する。暗闇から突然白日の下に晒され目が眩むように何も考えられない。
(天に召されたお父様、お母様。私ももうすぐ皆の所に旅立ちそうです)
気がつけば、死んだ両親の事が頭に浮かぶ。笑顔で笑いかけてくれる両親の姿がそこにはあった。
エミリアは炎の中で泣いていた。
両親の死んだあの日から今まで泣いたことなど無かった。
泣かないように気を張っていた。
痩せ我慢をしていた。
しかし、それは強さでは無い。
考えないようにしていただけ。
結局は逃げていただけだ。
自分の弱さに潰されないように。考えてしまえばもう自分は立ち上がれないという予感があったからだ。
「本当にあなたはお人好しねエミリア」
耳元で囁かれる奈都芭の声。呆れるようなその声色には何処か優しく慈愛が込められているようにも感じられた。
(温かい…とっても…)
燃え盛る魔炎に包まれてい筈なのに、まるで日だまりの中にいるようだった
気を抜けばこのまま眠りに落ちてしまいそうな程心地よい感覚に支配される。