鑑定不能
エミリアが水晶に手を翳すとそれは淡い光を放ち始める。同時に隣に設置された、筆記装置がセットされている紙に幾何的な模様が描かれていく。
描写が終わるのを確認するとエミリアは模様の書かれた紙を手に取る。
「この紙に記されている紋様。 根幹陣が私のギフトを示しています」
エミリアはそう言い、奈都芭にその紙を渡す。
「無論、そのままでは何が書かれているか分かりません。この図を解読して自らの資質を知る訳です。あの、どうかされましたか?」
奈都芭が思いのほか真剣な表情でエミリアの 根幹陣を凝視している事に気づき、エミリアは首をかしげる。奈都芭は紙に書かれた陣の端に指を置く。次の瞬間、描かれた紋様の一部が光を放ちそこから氷柱が飛び出し紙が砕け散ると共に、氷柱も砕け散った。
「おおっ、こうなるのか」
飛び散る紙の破片を興味深そうにみる奈都芭。何気なく行ったその行為にエミリアは目を疑った。
「奈都芭様、一体何をしたんですか?」
「いや、この陣の一部が見覚えのある形をしてたから触ってみただけだけど?」
エミリアは隣に控えているミーシャに目線を送る。ミーシャはそれに小さく首を横に振る。何をしたのかは理解できる。 根幹陣は様々な陣が折り重なったものである。
重なり合った陣には一つ一つ意味があり。重なり合う陣の数が多ければ多いほど多様な恩恵を得る事ができる。
エミリアのギフトは四重奏。氷属性術式。風属性術式。自己修復。聖印。
つまり奈都芭は複数の陣の中から一つをピックアップし、そこに力を注ぎ現象を発現させた。
しかし、この国一番の宮廷術士であるミーシャにもこんな真似はできない。
然るべき処置をした術具を使用すれば話は別だが、 根幹陣を書き写しただけの紙で現象を発現させる事は不可能――否、出来ては(・・・・)いけないのだ。
エミリアの背中に冷たい汗が伝う。もしも、自分の予想が当たっているのなら――
「どうでもいいけど、これに手を翳せばいいのね?」
エミリアの心情などつゆ知らず、気づくと奈都芭は鑑定用の水晶に手を翳していた。
「待ってください!」
反射的にエミリアは声を上げ制止したが時すでに遅し、水晶は部屋を白く染める程に激しく発光し次の瞬間に炎を巻き上げ砕け散った。
飛び散る破片をガードするように、奈都芭は巻き上がった炎と同じ色の深い朱の炎を纏っていた。
「びっくりしたわ。なんでいきない爆発するのよ。これ不良品なんじゃないの?」
何事も無いように炎を纏う奈都芭をよそに、エミリアとミーシャは焦りの表情を浮かべていた。
「魔力光・・・」
奈都芭の纏う炎。それは炎という事象を具現化した魔の炎。世界を己が儘に歪める魔の力。そしてそれは――
「やはり・・・あなたは魔族なのですか」
エミリアの問い掛けに奈都芭は呆れたようにため息を吐いた。
「あなた達の言う魔族って何?」