寝られないときは羊を数えろって言うけど逆に目が冴えるくね?(続)
その後は滞りなく自己紹介が終わり、本日の日程は全て終了した。
「これで今日の予定は全部終わりだ。解散していいぞー。あ、そうだ。今日からお前たちは寮に住むことになっていると思うが、それぞれの寮の場所は入学式の時に渡したプリントに書いてあるから指定された場所に行くように。
あとの事は各寮長に任せてあるから。ほい、解散」
そう言い終わる前には先生の体の半分は既に廊下に放り出されていた。
どんだけ早く帰りたいんだよあの人は…
「誠~、このあとなんか用事ある?」
後ろから話かけられたので自然に体を後ろに向ける。
「俺先生に呼び出されててさ。ほらさっき言ってたろ?オリジンの測定」
「あ~、そんなこと言ってたな。じゃあそれが終わったら食堂に行こうぜ!ここの食堂はめちゃくちゃうまいって評判なんだぜ?」
「へぇー、そりゃ楽しみだな。分かった、用事が終わったら行くから先に行っててくれ」
「はいよー」と気の抜けた返事をしてさっさと進は教室から出ていった。
「よし、じゃあ俺も行くか」
と、席を立って鞄に手をかけようとしたとき
「君が天海 誠君かい?」
聞き覚えのない声に一瞬びくつきながら声のする方に顔を向ける。
顔を向けた先には白髪の男子生徒が立っていた。
「えっと、どちらさんで?」
「初めまして、僕の名前は御門 蒼士。次期御門家の当主だ。以後、お見知りおきを」
俺の進行方向を妨げるように立つ御門は右手を前に、左手を後ろに回して俺に向かって少し頭を下げている。
しばらくして頭をそっと持ち上げると、そこには左右で色の違う瞳が俺を映していた。
「ご丁寧に挨拶どうも。天海 誠です。御門さん、話しかけてきてもらってすごく嬉しいんだけど俺この後先生に呼ばれててさ、ちょっと急いでるんだ。出来れば明日ゆっくり話しようぜ!ごめんな」
と言い足早にその場を立ち去ろうとする俺に御門が一言。
「待ちたまえ」
さっきの友好的な声とは違い、今度は低く冷たい声。この感じを俺はよく知っている。これは、人を軽蔑している声だ。
「君にこの僕から1つだけお願いがあるんだ」
「『僕と友達になってください』とかの雰囲気ではなさそうだな」
「登校初日で申し訳ないが、この学園を自主退学してほしい」
「は?」
「登校初日で申し訳ないが、この学園を自主退学してほしい」
あ、いやいや聞こえなかったわけじゃなくてそのお願いの内容に対しての返事だったんだか
「君は、生まれつきオリジンがないそうだね。そのような劣等種と同じ学園、ましてや同じクラスなんて僕のステータスに傷がついてしまう。
先程も言った通り、僕は次期御門家の当主になる男だ。そんな僕の経歴にこんなつまらない傷をつけたくないんだ。分かるだろう?」
明らかに俺を見下しての発言に俺は久しぶりに苛立ちを覚える。
なにひとつ分かっちゃいないが(分かりたくもないが)これだけは分かる。こいつは俺が最も嫌いなタイプの人間だ。
「生憎だが、お前の言うとおりにしてやる気もなければ義理もない。だからこの話はここで終わりだな。じゃ、俺は用事あるから」
こういうやつには関わらないのが一番と昔から相場が決まっているため御門の横を足早に去ろうとするが再び阻止される。
「君、あまり僕をなめない方がいい。御門家を怒らすのは得策とは言えないと思うのだが。まさか御門家の恐ろしさを知らないわけではあるまい?」
その言いふるまいに、とうとう俺の中でなにかがキレる音がした。
「はっ!みかどだかかまどだか知らねーがよ!貴族ってのは親が偉いと自分のわがままは何でも叶うと思ってんのか?なにが怒らせるのは得策じゃないだ!いちいち難しい言葉ばっかり使ってんじゃねーよ!どけっ!」
急な俺の変貌に目の前の御門だけではなく、まだクラスに残っていたクラスの大半がこっちを見て固まっている。
そんな視線を気にも止めず、固まっている御門の横を通りすぎる。教室を出る寸前に、
「覚えていろよ」
という声が聞こえた気がするが気のせいということにして俺は目的の場所に向かった。