寝られないときは羊を数えろって言うけど逆に目が冴えるくね?
朝、目が覚めたと同時に俺は机の上にあるブレスレットに目線を向ける。
「ふぅ。良かった」
昨日の出来事が夢ではなかったことを確認した俺はホッと安堵した。
今日から本格的な授業が始まる。全てのことが俺にとっては未知の世界だろう。
「ふっ。世界ってこんなに美しかったんだな。今なら全てがキラキラして見える気がするぜ」
と、朝っぱらからポエミーなことを口ずさみながら枕元に置いてあった目覚まし時計に視線を移す。
時計が指している時間は午前8時40分。
始業のチャイムがなるのは午前9時00分。
「ん?俺ん家から学園までの距離だとチャリでとばしても30分はかかるよな?それに今日は拓也が使うから俺は徒歩だからいつもより早めに時間を合わせたはず…」
頭が現実を理解した時には、俺は家を飛び出して猛ダッシュしていた。
俺が学校に着いたのは9時10分。
全力疾走の成果は出ず、中からは授業をしているであろう先生の声が聞こえる。
「はぁ…はぁ…。血の味がする…。担任の先生って…はぁ…男…なんだな…。」
息を整えながら言い訳を考えていたが全くそれらしい言い訳が思い浮かばず、何事も素直にぶつかって砕けようと意思を固め、教室のドアを開いた。
「おっはようございま~す!すいませぇん!睡魔と素敵な友好関係を築いていたら遅刻しちゃいました~♪」
自分の出せる最大の高い声でそう言い放った俺にクラスにいた全員の視線が集まる。
そこから沈黙が30秒ほど。俺のピュアハートはブレイク寸前になったところで、
「そうか、えーとお前は天海だな。今回はお前のこれからの学園生活の終わりと等価交換で許してやる。さっさと席につけー。」
(先生、それ俺の片手片足もっていかれるレベルの等価交換です…。)
心の中で先生にツッコミを入れた俺は自分の青春に満ちた学園生活に別れを告げ、誰も座っていない席に向かった。
「あー、おい。お前の席はそこじゃない。そっちの窓際の席がそうだ。今日はもう1人遅刻しているやつがいてな。連絡があったからもうそろそろ来てもいいはずだが…」
先生が時間を確認するために時計に視線を移したタイミングで先ほど俺が入ってきた扉が開いた。
そこから入ってきた人物にクラス中の男子が目を奪われた。
まず目をひくのは長い金色の髪。
そしてその髪の持ち主自身もその髪にひけをとらないくらいに整った顔立ちをしていた。
瞳の色は薄い青でサファイアを埋め込んでいるんじゃないかと思うくらい綺麗で、スタイルも抜群。
心なしかクラスの女子達も見とれていた気がする。
「すいません。遅刻しました。花咲 ひかり(はなさき ひかり)です」
綺麗な透き通った声で淡々と必要な情報だけを話す彼女。
「ん、花咲な。次からは気を付けるんだぞ。本来なら遅刻届けを出さないといけないんだが…。俺がめんどくさいから二人とも今回は免除しといてやる。ほら、花咲も席につけ。」
(なんかゆるーい先生だな。ま、俺はそうゆうゆるさは大歓迎だけど)
「よし、全員そろったな。さっそく授業を始めるぞー…と言いたいところだが、本格的な授業は明日からで、今日は自己紹介と簡単な能力測定で終わろうと思う。入学して1日目でいきなり授業はめんどくせぇだろうという俺からの素敵な配慮だ。ありがたく思えよ?」
((お前がめんどくせぇだけだろ!!))
(ん?今クラスの心が1つになった気がする)
「じゃ、さっそく窓際の席から自己紹介していけー。あ、その前に俺の自己紹介しとくか。俺の名前は神宮 京介、25歳。好きなことは…まぁめんどくさくないことだ。よろしく」
自分の紹介を終えると先生は誰も使ってない机から椅子を引っ張りだし座ると、俺の列の一番先頭にいた生徒を指差しポケットからアイマスクを取り出し目の上に装着した。
((いや!せめて俺(私)達の自己紹介は聞けよ!))
(このクラスの人達とは仲良くなれそうだ)
俺がそんなことを思っていると指名された生徒から順番に自己紹介が始まった。