何気ない幸せの後の不幸は5割り増し(続)
「ささ!座って座って!楽にしてもらってかまわないからね?」
部屋に入った俺は部屋の中を見渡す。
まず目に入ったのは天井からぶら下がるシャンデリア。
壁にはいかにも高級であろう絵画がかけられてある。
他にも目を奪われる物はあったがとりあえず俺はソファーに腰を下ろすことにした。
(うわっ!超フカフカじゃん!家のベットより寝心地良いぞこれ。今日からここで寝かせてくれねぇかな。)
そんな能天気な事を考えていると学園長から口を開いた。
「さ!なんでも質問してくれていいよ!そのためにこの後の仕事は全部秘書に任せてあるからね。いやー、君のおかげでだいぶ楽ができちゃったよ~。」
この人もたいてい能天気だな。
「じゃあいくつか質問させてもらいます。まず、学園長は俺の事をどんな人間か知っていますか?」
「もちろん知っているよ!君自身の事も、君の家庭の事もね!まぁ両方とも有名だから知らない人は少ないと思うけどねー。特に君自身の事は。」
ここで少し俺の家庭の説明をする。俺の父は少し名の知れた剣術家で、その道の人なら必ず名前を知っている程の人だ。
そして俺と弟は幼少期から剣術を教わっていたが、弟は途中で自分には向いてないと思ったらしくやめてしまった。
俺自身は今でも道場に通っていて、俺はオリジンがないため、大会には出てないもののそれなりに全国でも通用するレベルには達していると自負している。
「そうですか…。ではなぜ俺が特別推薦でこの学校に入ることができたんですか?この学校は全国でもトップクラスのオリジンを持つ生徒しか入学出来ないはずです。オリジンを持たない俺が入れる学校じゃありません。」
俺の質問を聞いた後、少しの間をおいて学園長は答えた。
「君の言うとおりだね。確かに、普通なら君はこの学校に入学することはできないだろうね…。」
そう言った学園長はバツが悪そうな顔で俺を見ている。
「率直に言うと、君はこの学園に保護されているんだ。」
学園長の言葉に俺は首をかしげる。
「今から120年前、地球に謎の隕石が落ちてきてから私達人間はその体にオリジンを宿すようになった。そこから月日は流れ、今じゃオリジンは人間にとって生活の一部となっているよね?でも君はこの世界で唯一オリジンを持たない特別な存在。」
改めて人から言われると自分の中で再確認してしまう。
俺は時代に取り残された落ちこぼれの存在。
「他の人達にはできることが君にはできない。この世界は君にとってとても生きづらい世界なんだ。それは君が一番理解していると思う。私と君の父親は古くからの友人でね。君の話を聞いた時になんとか力になりたいと思ったんだ。」
俺は少し驚いた。今まで出会った人は俺を軽蔑するか、かわいそうだと憐れみの目を向けるだけだった。
だけどこの人は、赤の他人である俺の力になりたいと思ってくれた。そして俺を保護するためになんの取り柄のない俺をこの学園に入学させてくれた。
「あれ?」
気づくと俺の目からは涙が流れていた。
「なんで、泣くつもりなんてないのに。勝手に…」
自分の意図せず流れた涙に戸惑っていた俺を学園長はそっと抱きしめてくれた。
「つらかったね、今まで力になれず申し訳なかった。でもね、もう大丈夫だよ。私は君の味方だから。」
その言葉に俺は更に涙が止まらなくなってしまった…。
「もう、大丈夫です。ありがとうございます。」
ようやく落ち着きを取り戻した俺は今まで学園長に抱きしめられていたことに気づくと恥ずかしさが込み上げてきた。
顔を赤くする俺を見て学園長は優しい笑みを浮かべる。
「さぁ、ここからが本題だ。私は君を保護するためにこの学園に入学させたと言ったね?でもね、実はそれは周りを納得させるための口実なんだ。」
俺は再び首をかしげた。
「と、言いますと?」
「君には、この学園でオリジンの使い方を学んでもらいます。」
「……へ?」