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野営の夜話

173話でウォルターの言ってた内容の、もう少し詳しいバージョンですね。

と言うか、先に書いたのはこっちですが。


 アトラーティカの村で裕二、エリネアと別れたテリー、バチル、メリル、バン、セーラの五人。彼らはペルメニアへ戻るため、元来た道を辿る。そこには魔の森と言われたヴィシェルヘイムがある。

 多くの強者を葬ってきたヴィシェルヘイム。しかし、今は裕二たちの活躍によりかつてないほど安全になっている。

 ヴィシェルヘイムの最前線と言われる街、シェルラック。その上層部では、ジェントラー家から派遣されたテリーの兄、ダドリー・ジェントラーにより様々な説明がなされていた。

 シャクソンが魔人だった事の衝撃はシェルラックを通じて各国に伝わる。そして、その上層部の中でも一部の者にだけ知らされた裕二の正体。それは更に大きな衝撃となっただろう。

 しかし、それを知らされる事の意味は、魔人がいつ動きだしてもおかしくないと言う事でもある。各国は秘密裏に戦闘の準備を始める必要がある。

 シェルラックの一般兵たちはまだその事を知らないが、そこに展開する各国部隊が再編される様子を見て混乱している。

 三国会議からの発表では、ホローへイムに展開していた調査隊が聖堂騎士団と協力し、キマイラの大群を撃破した事になっている。その際に、大量の死者、行方不明者を出したとされていた。そこには、裕二、バチル、バン、セーラの名も行方不明者として記されている。そして、戦死者のほとんどはシャクソン隊に所属していた者達だ。もちろんこれは事実とは違う。彼らは裕二に剣を向けた反乱軍として拘束、一部は処刑された。

 ラグドナール隊には厳しい箝口令が敷かれ、シェルラック再編の折りに部隊ごとハルフォード本軍所属になり、ペルメニアへと戻っていった。

 ちなみに、セーラを攫ったダルケン、ズール、ゴドン、モッグは後日、死体となって発見された。


 テリーたちには行方不明者のバンとセーラがいるので、出来るだけ人と会わないよう未踏地から元々モンスターのあまりいない地域を通り、シェルラックを素通りする事になっている。ただ、移動に使えるのが、テリーの操るシャドウのみになってしまったので、ヴィシェルヘイムでは体力的に考えてセーラのみがそれを利用して進む。

 シェルラック近辺に来たら、テリーたちの預けた馬があるので、メリルがそれを回収してペルメニアへ向かう予定だ。

 遠回りして面倒なルートを通るので、それなりに時間がかかるだろう。彼らは、ほとんどモンスターの現れなくなったヴィシェルヘイムを進む。


「ぐっ!」

「ニャッハッハッハ。読みは悪くニャいニャ。でもそれだけじゃダメニャ」


 そのヴィシェルヘイムで野営するテリーたち一行。夜になるとバンとバチル、その剣の交わる音が響く。

 バンは師匠であるムサシと別れてから、バチルやメリル、テリーからも稽古をつけてもらっている。


「バチルはかなり強くなってるな。こりゃバイツじゃ勝てないかもな」


 学院時代のバチルを知るテリー。その頃と比べると格段に進歩しているように見えた。


「ユージ様の影響ですニャ?」

「それはあるだろうな。アイツと一緒にいたら強くなるしかない。現にバンはそうなってる」


 メリルの問に答えるテリー。セーラも横でそれを聞き、気合い入れ直す。


「テリー様。私も色々覚えたいです」

「色々覚えたいか……そうだな。セーラはかなり特殊だから精霊魔法を先に覚えても良いな。浄化の鏡を自在に操れるなら却ってそちらの方が簡単だ」


 浄化の鏡が使えるなら、魔力消費を抑えて精霊魔法が使える。

 例えば火魔法なら、通常の場合は自身の魔力を直接火に変える。精霊魔法の場合は火の精霊が火魔法を作り出す。つまり自分の魔力だけでなく、精霊を経由し、大地の魔力も合わせて使う事になる。

 精霊の出現に魔力と言うコストがかからなけらば、そちらの方が威力も効率も高いのだ。浄化の鏡が使えるならそれも可能になる。

 今のセーラはどの精霊も区別なく出現させるが、それを種別にコントロール出来たなら、基礎的な魔法は容易く扱えるだろう。


「そう言えば、以前ユージ様に教えていた亜空間魔法は……」

「あれは最上位の通常魔法だ。セーラには難しすぎる」

「そうなのですか……」

「落ち込むような事じゃないぞ。あれをまともに使える人間などほとんどいない」


 魔法について詳しくないセーラは、ついつい周りを比較対象にしてしまうが、テリーや裕二、エリネアと比べるのはそもそも間違いだ。亜空間魔法など、チェスカーバレン学院でも教えていない超高難度魔法に入る。


「あのじいさん、いや学院長でも収納魔法か亜空間の盾がせいぜいだろう。教えられる人間がいないんだよ。かなり危険でもあるしな」


 だが裏を返せば、テリーはそれを覚醒前とは言え、クリシュナードに教えていた。それだけの力の持ち主とも言える。もちろん、元を辿ればテリーの知識の多くも、クリシュナードからのものになるが。


「亜空間に落ちたら抜けだす術がないとずっとそのままだ。ユージにはセバスチャンがいるから、仮に落ちてもセバスチャンが助ける。まあ、ユージはクリシュナードだからそれはあり得ないがな」

「それは恐ろしいですね。亜空間に落ちたら、もうそこから抜けられないのですか?」

「それが出来る程の魔術師なら、何とかするかもな。だが、未来に行ってしまうかもしれん」

「未来?」


 亜空間は通常と時間の流れが違う。その流れは通常の時間を越える事はない。つまり時間の停止に近い状態から、通常の時間と同じ、その間になる。完全な停止はない。

 亜空間の時間の流れが遅いと、亜空間内での一秒が通常の十秒だったりする。つまりその亜空間を通ると、十秒先の未来に行く事になる。もちろん、それを元に戻す事は出来ないので、未来に行きっぱなしになるのだ。当然、過去には行けない。


「まあ、百年間仮死状態で復活したら、世の中は変わっていた。みたいな事だ。未来に行くといっても、時間をコントロール出来るワケじゃない」

「すると、時間旅行は無理ってことですニャ?」

「亜空間魔法ではな」


 興味深く質問してきたメリルに、テリーは答えた。しかし、それは亜空間魔法では、と言う答えだ。間髪入れずセーラが質問をする。


「つまりそれ以外の魔法なら……って事ですか?」

「いや、理論があるだけで誰かが成功させたワケじゃない。俺の知る限りクリシュナードでさえ成功させていない」


 タイムトラベル、時間旅行、呼び方は色々あるが、それはどの様な魔法なら可能なのか。亜空間魔法では未来に行けるが帰っては来れない。これでは時間旅行とは言えないし、そんな片道切符では誰も行きたくないだろう。


「その理論を知りたいですニャ」

「そうですね。面白そうです」

「……まあ、いいだろう。俺たちアトラーティカの祖先、そしてユージは異世界にいた事がある。それは聞いてるな」


 テリーたちが今いる世界を元世界、それとは異なる世界を異世界とする。つまり裕二のいた地球はここから見たら異世界だ。


「その二つ、元世界と異世界の因果関係は限りなく薄い。俺やユージがこの世界にいる以上、無ではないがほとんどない、と言う状態だ」


 例えば、地球が爆発したとしても、こちらには何の影響もない。そして、双方は時間の因果関係もほとんどない。

 アトラーティカはこちらの世界に来た時、時間を指定したのかはわからないが、それはその時間でなければならない事もない。例えば、それが今日であっても良いのではないか。


「俺たちは異世界の神々によってこちらへ飛ばされた。そこで時間は指定したのかも知れないが、今回は説明なので指定しなかったものとする」


 そうすると、アトラーティカは現在を基準に過去未来、どちらの時間にも行けた事になる。大昔であっても現代であっても、異世界から見たら時間の着地点をどこにするかは、指定していなければランダムに決まるのではないか。


「それを利用する。例えば今から異世界に行き、すぐこちらへ戻る。その体感時間は五分としよう。しかし、双方の世界の時間の流れは別々だ。その到着は今から十分後でも一時間前でも良いことになる。未来にも過去にも行けるだろ」


 元世界から異世界に行くと、その時点で元世界の時間には縛られない。それは逆でも同じだ。この世界の外側、時間の因果関係がない場所から、こちらへ来れば因果がないので着地する基準もない。そこから行く場所には現在と言う基準がなく、着地した時点で現在が作られる。

 それが過去になるか未来になるか、基準があるとしたら、その実行者の記憶だけになるだろう。その記憶に過去未来はあるが、異世界から元世界を見た場合には、過去未来、そして現在、その基準はなくなる。指定した時間が現在になるが、最初の記憶を保持していれば、そこは過去にも未来にもなる。

 元世界と異世界、二つの交わらない時間軸がある。それは過去から未来へ一本の線となって続く。それを元世界から異世界、そしてまた元世界へ三角形を描きながら移動する。

 その形をトライアングルタイムアクシスと言い、クリシュナードの作り出した時間移動の理論になる。


「そんな事出来るですニャ!」

「だから理論だと言ったろ。実際その時間の指定などどうすれば良いのか見当もつかない。それ以前に異世界に行く方法もない」


 異世界を経由すれば、時間に縛られない。過去にも未来にも行ける。もちろん、誰もこれを成功させてないので本当にそうなるのかはわからない。そんな事をするとしたら、亜空間魔法など比較にならないとんでもない超魔法になるだろう。そして、その超魔法は単一のものではなく複数になるはずだ。異世界に行くのも時間の指定も一度には出来ない。もしそうしたいのなら、別の何かが必要になる。


「それが出来たら過去に戻って魔人の出現を止められるですニャ?」

「普通はそう考える。俺もそう考えてクリシュナードに否定されたけどな」


 それをしても確定した未来は変えられない。何故なら、過去を変えた時点から世界が分岐してしまうからだ。そちらの歴史は変わるかも知れないが、こちらは何も変わらないのだ。それにそんな事をしてしまえば、元の世界に戻る事も困難になる。ひとつ歴史のズレた世界にどうやって戻るのか。


「世界を分岐させても意味がないだろ? それに現象だけ見てはならないとも言われた。世界の歪みがそれを引き起こしていると言う事だ。過去に戻って歪みに蓋をしてもそれは見えなくなっただけだ。いずれ歪みはもっと大きくなり世界を襲う。だそうだ」


 例えば、過去に戻って魔人の出現を食い止めても、それをした人はそれで止めないかも知れない。また、隠れて同じ事をすれば結果も同じだ。それも現時点では確定していない歴史。世界の歪みがそれを更に広げる可能性もある。


「まあ、それも過去に戻れたらの話しだがな。クリシュナードがそれを出来るにしてもその方法は取らないって事だ」


 メリルは納得したようだ。実際、時間旅行が出来てもその影響はどうなるのかわからない。今までにそんな形跡がない以上、出来ないものと考えた方が良い。過去を踏まえて、この世界の未来を変えなければ意味はないのだ。


「ニャるほど。クリシュナード様にさえ無理ニャら誰も出来ないですニャ」


 そう答えたメリル。しかし、テリーは軽く目を閉じてから再び開く。そこに一瞬の迷いのようなものを感じた。


「そうかな?」


 テリーはメリルの言葉に疑問を投げかけた。しかし、それは本当に疑問なのではなく、何か別の事を知っているようにも思える口ぶりだ。


「セーラはどう思う」

「私は……クリシュナード様以外でそんな事……あ!」

「少し喋りすぎたか。この話しはここまでだな。後は理論じゃなくなる。言っておくが色々推測してよそで話すなよ。と言うより不確定要素が多すぎて正確な答えは出せないはずだ」


 テリーはまだ何か話していない事がある。しかし、そこには不確定要素が多すぎて正確な答えにはならない。だが、今はそれが最も正確な答えにもなるのだろう。そして、それをよそで話してはいけない。となると、裕二や自分たちにも関係がありそうだ。これがどうでも良い雑談なら、テリーはそう言わないはず。


 ――確かクルートート卿が……


「ニャッハッハッハ! ハラ減ったニャ」


 と、そこでセーラの思考は中断された。バチルとバンがこちらへ戻ってきたのだ。


「大丈夫ですか! クルートート卿」

「た、大した事はありません、セーラ様」


 だが、見た目にはあまり大丈夫そうには見えない。バンはバチルに引きずられながらこちらへ戻ってくる。かなり厳しい訓練を受けたようだ。セーラは慌てて駆け寄る。


「ちょうどいい、セーラ。細かい事は考えなくてよいから光の精霊のみを作ってみろ。それをバンの周辺に漂わすだけで良い」


 光の精霊は癒しや成長などに関係する。それをバンに使わせる。

 通常、自然界では火、水、土、風の四属性が一般的とされ、光や闇の精霊はそうではない。故にそう言った精霊魔法は高難易度となる。

 簡単に言うとレアなので集めるのが大変、と言う事だ。しかし、セーラはそこを省く事が出来る。それが自分で作れて自在に使えるなら、その分難易度は下がる、と言う理屈だ。


「精霊は基本、大地から生まれる。大地の魔力が精霊に変化する。だが、そこで変化は終わらない」


 様々な精霊は成長し合流して変化する。そして、より強い力を持つ精霊となり、更に長い時間をかけて自我を持つ場合さえある。

 光の精霊を作り出すのは高難易度ではあるが、その初期段階と言えるだろう。


「まあ、俺も精霊を作り出す事は出来ないのでアドバイスは理屈だけになるが。後は感覚だろうな」

「わかりました」


 セーラは手を合わせ、浄化の鏡を出現させる。そこからゆっくりと精霊が溢れてくる。しかし、それは四属性を中心としたもので光の精霊ではない。


「まずは光の精霊になりかけているものを探せ。勘で良い。見つけたらそこに他の精霊を合成させろ」

「はい」


 セーラは目を閉じ、慌てずゆっくりとそれを探す。すると沢山の精霊の中にクローズアップされるように一つの精霊が浮き上がる。


 ――これだ……


 そこへ意識を向けると、その精霊を中心に他の精霊が吸い込まれていく。やがてそれは、白く強い光を帯びた精霊へと変化する。それが光の精霊なのだろう。

 それはセーラがさほど意識せずとも、バンの体にまとわりつくように動き出す。


「それくらいで良いだろう。後は勝手に回復するはずだ。やり過ぎると一回でバテるぞ」

「は、はい」


 セーラの練習に使われたバンは少し穏やかなな表情になり、ゆっくりと起き上がった。


「ふむ、徐々にですが痛みは引いてますな」

「それが精霊を使った治癒魔法の初期のものだ」


 セーラはひたいの汗を拭いながらテリーに向き直る。


「なるほど。実際にやってみると良くわかりました」

「なかなかやるのニャ。それは凄いちびっ子の技なのニャ」


 寝っ転がって干し肉を齧るバチル。もちろんそのレベルに大きな差はあるのだろうが、セーラはテンと同じ事をしているように見えたのだろう。


「テリオス様の魔法の知識は凄いですね」

「ほとんどはクリシュナード。つまりユージから教わった事だがな」


 こうして旅の間、セーラとバンは少しづつ着実に力をつけて行く。


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