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裕二の元へ

シェルラック関連の話がいくつか残ってるので出しときます。


「さっさと吐かんか!」

「うぐっ」


 パサリとたれ下がる美しいロングヘアーから突き出した長い耳。それは人とは違う種族である証。しかし、彼女は他種族である人から見ても絶世の美女と映るだろう。その美しさと古風な言葉づかいが特徴的な女性。

 シェルラックの男性冒険者から高い注目を浴びてはいるが、彼女に手を出すのは自殺行為と誰もが知っている。何故なら彼女は、あのキマイラ調査隊攻撃班のリーダーに選ばれる程の高名な冒険者でもあるからだ。

 そこに集まる多くの冒険者や兵士も、それが妥当な人選と思わせる程の武力を持ち合わせている。

 そもそもシェルラックにやってくる女性冒険者というのは、それだけで人並み外れた存在でもある。数としては少ないが、迂闊に手を出せば魔法を食らうか剣を突きつけられるか、その程度の覚悟がないならやるだけ無駄だ。そこいらの男性冒険者を軽く凌駕するからこそ、彼女たちはこんなむさ苦しい場所にいる事が出来る。最近頭角を現してきたバチルと言う女性冒険者も、見る人が見れば一瞬で恐ろしい程の殺気を放つ事で知られている。彼女もまた、キマイラ調査隊攻撃班のひとり。並みの男では太刀打ち出来ないだろう。

 そのキマイラ調査隊攻撃班をまとめてきたエルフの女性は、目の前にいる男の胸ぐらを片手で掴んで軽々と持ち上げている。


「ま、待ってくれメフィ。さすがに俺の権限では話せない事もあるんだ」

「貴様は妾の素性をしっておろう、ラグドナール。ユージは北へ、すなわちエルファスへ向かっておるのじゃ! その意味がわからぬ程の間抜けではなかろう?」

「わかってるって! とりあえず離してくれ」


 そう言われた女性は表情を変えぬまま手を離す。落とされた男性は咳き込みながら膝をつく。

 その男性はハルフォード家の嫡子であるラグドナール・ハルフォード。女性はその中隊に所属するエルフの冒険者、メフィ。

 本来であれば立場的にラグドナールが圧倒的に上ではあるのだが、その部下となっているメフィには隠された素性がある。


「ダドリーはエルファスの王女がここにいるなんて知らないんだぞ。情報開示の対象に入ってるわけないだろ」

「ふむ、それもそうじゃな。では今すぐそれを知らせ情報開示の許可を得てこい! ユージが何故エルファスに向かっているのか、そして奴が何者なのか、妾は知らねばならん」


 現在ラグドナールの率いる中隊は、キマイラ調査終了後に起きた混乱により色々とゴタゴタを抱えている。その中のひとつに部隊の再編がある。

 ラグドナールの隊はハルフォード軍全体の調整により、モンスターの一気に減ったヴィシェルヘイムから、本国への移動を言い渡されていた。そこには当然、メフィを始めとしたジンジャーやエムオールと言った実力者の同行命令もある。

 メフィは今、その話をされていたのだが、裕二に渡しておいたイヤリングから、予め独自の追跡調査を行っており、彼がエルファスへ向かっている事実を突き止めた。そして、それ以前に見ていた裕二の力。父親から聞いていた様々な情報を組み合わせ、そこに隠された情報を導き出していた。

 そうなると、メフィのするべき事はラグドナール隊との同行ではなくなってくる。その情報の最後の確信。メフィは今、それをラグドナールから得ようとしていた。


「大方の予想はついておる。妾の父が誰だか知っておろう。あれ程の力を見せたユージがその父の元へ向かう。そのユージが何者か。思い起こす人物はひとりしかおらん」


 ラグドナールはそれを聞き、メフィがほぼ全ての事を把握しているのだと理解する。そして、本来であれば情報開示の対象に入っていなければならない事も。


「わかった。そう言うことなら許可は出るだろう。エルファスで何かあったら困るからな。ユージがそこへ行くなら、今回のような事がないとは言えないし」



 現在のシェルラックでは、ジェントラー家からダドリー・ジェントラーが情報説明の任を受け、この地に留まっている。その情報開示の対象は予め決められているのだが、場合によりその枠を広げる権限も持っている。

 ラグドナールはその許可を得るため、三国会議場の一室に設けられたダドリーの部屋を訪れた。


「お、ラグ先輩。どうしました? 顔が青ざめてますが」

「いや……お前が来てくれて助かってるよ」

「なんだかお疲れのようですね」

「ああ、さっきまでシェルラックトップクラスの高位冒険者から締め上げられてたからな」


 二人はチェスカーバレン学院の先輩後輩の間柄であり、気安く話せる友人同士と言っても良い関係だ。ラグドナールは教会の問題や各国との連携、部隊の編成からメフィの事も考えなければならない。その情報を操作する部分に気のしれた人物がいてくれのは心強い。ダドリーは若くてもジェントラー家の一員であり、学院では自警団の団長を任される程の人物でもあるので、様々な情報に精通している。情報分野でダドリーより優れた者はそうそういないだろう。その情報網のひとつに、あのテリオス・ジェントラーがいるのだから。

 メフィはクリシュナードに直接仕えていた英雄のひとり、カフィスの娘でもありエルファスの王女だ。ハルフォード家と言う大貴族に所属するラグドナールであっても、メフィは軽く扱える人物ではない。

 その人物への情報開示と、それによる今後の行動は小さな問題ではない。それは一国の要人からの要請と言っても良い。

 そんな重苦しい話を知らない人物と協議するのは大変だが、目の前にいる有能な自分の後輩なら、その負担も大きく和らぐだろう。

 ラグドナールはダドリーにその説明を始めた。


「なるほど……エルファスのメフィ王女殿下ですか。そんな大物がシェルラックにいたとは……」

「ああ、しかもほとんどユージの正体もバレてる」

「わかりました。エルファスの王女殿下なら問題ありません。むしろそれはこちらの情報不足です。エルファスとも協力関係を保ちたいですから、情報開示は許可します」


 ダドリーにはテリーからの情報が入るのである程度裕二の動向も把握はしている。しかし、それもテリーの方の事情により現在は遅れている。おそらく、連絡のとりにくい場所にいるのだろう。そんな話も事前に聞いている。

 そうなると、メフィの言う裕二の動向は最新情報とも言える。そのメフィが再びこちらへ戻る事があれば、エルファスの詳しい情報もわかる。それはペルメニアにとっても重要なものだ。協力しないわけにはいかない。


「ユージが向かったのはエルファスですか。そのうちテリーから情報がくると思いますが、王女なら行かなければなりませんよね」

「まあな。本当はペルメニアに連れていきたいが……」

「確か、彼女はキマイラ調査隊攻撃班のリーダーでしたか。戦力としても凄いらしいですね。ベヒーモス数体を軽く吹き飛ばすとか。そんな人物がユージと合流するなら、こちらとしても都合が良いです」

「そうだな。厳しいが俺も色々教えてもらった。随分世話になったからな。エルファスの動向が不明な以上、行かせないわけにはいかないか」


 ラグドナールはダドリーと少しばかり雑談を終えると、部屋を後にした。



「やはりそうか……」


 ダドリーから情報開示の許可を得たラグドナールは、すぐにメフィの元へ戻りそれを伝える。そのメフィの一番知りたい情報は、裕二の正体がクリシュナードなのかどうかだ。メフィはそれをラグドナールから聞いた。


「もう少し待てばテリオスから情報が来るそうだ。そうすればユージの目的もわかる」

「そうか、今はわからぬか……しかし、ユージと我が父との接触は、魔人からするとエルファスで最大の警戒対象となるはずじゃ。あまりのんびりはしておれん」

「なるほど……確かにそうだな。接触じたいが問題って事か」


 もし、その情報を魔人が掴めば、それは最大限秘匿しなければならないクリシュナードの顕現を知られる事にもなる。エルファスの王女であるメフィがそこへ行けば、裕二の目的が何であれ、スムーズに事を運ぶ事が出来る。魔人に関連するリスクは最小限に抑えられるだろう。


「じゃが安心せい。ユージがあやつならばそれも考慮されているはずじゃ。父上から何度もそんな話を聞かされた。今のユージはそれを知らんかもしれんので補佐は必要じゃがな。エルフの王、カフィスの娘である妾なら、その補佐に適任であろう」

「うーん。考慮されてるのに知らないって……どういう意味だ?」

「我々が見たユージ、そしてかつてのユージが同じかはわからぬ、と言うことじゃ」

「あ、なるほど」


 五百年前のクリシュナードと現在の裕二が同一人物だとしても、その知識や力を完璧に受け継いでいるのかどうか。それは現段階ではわからない。そこに不足があるのなら補佐は必要だ。それがエルファスで行われるのなら、その最適人者がメフィと言える。


「悪いがすぐに発つ。ジンジャーやエムオールには上手く説明しておいてほしい」

「わかった。いずれ戻るのか?」

「そうじゃな。向こう次第じゃが、ペルメニアで合流するかもしれん」

「ああ、待ってるぞ」


 そして、メフィはラグドナールに別れを告げると、裕二の向かうエルファスへと旅立っていった。


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