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・ 戦場のぬいぐるみ

硝煙の香りと、焼き切れた沢山の物と仄かな死臭が漂う。

そこは平穏とは無縁の場所。

戦場である。

少女は飲み水さえまともに手に入らないほど、飢えた状況に居た。

戦いの無い世界が何処かに有るならば、そこへ何時か行ってしまいたい。

そう願うことすら、考えに浮かばない。

心の奥底に抱え込んで、日々をあわただしく過ごしていた。

「母さん!!ああ!とうとう母さんまで!」

最後の肉親は、流れ弾に当たって、つい今し方事切れた。

母の遺体を埋める余裕は無かった。

そこにいたら自分も死んでしまう。

なのに、少女は諦めが悪かったのだ。

母の遺体を引きずるように、何とか被害の少ない方へと逃れた。

リィンリィンリィン。

美しい鈴の音が少女の耳に響く。

「鈴?爆音で耳が変になったかな?」

困惑顔で空を見上げると、何かが浮かんでいた。

「あれは・・・何?」

少女の声に反応して、それは降りてくる。

「みつけた、ケイトちゃん・・・見えるのね私達が。」

美しい女の人は、昔戦いの始まる前に、おばあさんが寝物語で話してくれた、サンタの様な格好・・・いやサンタその物であった。

「サンタ・・・さん?」

「ええ、サンタ一族のセシリィよ。とりあえず、手伝うわ。」

にこっ、とセシリィはケイトの母を埋葬する手伝いをした。

周囲に人が居ないのを確認して、魔法で埋めたのだ。

ぽかーんとそれを眺めた後、慌ててお礼を言った。

「ありがとうサンタさん。それと・・・こ・・怖かったよぅ・・・。」

最後はがくがくと震える足を地面につけて、セシリィの足にすがりついた。

「ずっと我慢していたのね・・・。」

優しく頭を撫でると、ぬいぐるみを手渡した。

「これ・・・は?」

「ケイトちゃんへのプレゼント・・・そしてもう一つプレゼントが有るの。

ここから動かずに1時間居なさい。」

にこっと微笑すると、サンタは掻き消えてしまった。

「えっ?お姉さん?はぅ・・・ひとりぼっち・・・行く所なんか無いよう・・・。ひっく、えっぐ・・・ぐすんぐすん。」

泣きべそをかく少女を、抱き締めてあげたい気持ちをセシリィは堪えた。

暫くそうしていただろうか?

一人の青年が瓦礫の一部から聞こえる声と、時折ひかる輝きを追いかけていた。

「生き残りはいませんかーーーーっ、こちらに誰か居ませんかーーー。」

大きな声を上げるが、今ひとつ反応が来ない。

「やっぱり壊滅的か・・・。」

ボランティアで一般市民の被害を救済する活動をしていた青年は、ため息を付く。

「・・・く・・・ひっく・・・。」

「え?女の子の泣き声?」

風に載って聞こえてきた声に反応する様に、走り出す。

そこには一人の少女が、ぬいぐるみを抱えるようにしゃがみ込んでいた。

「マリアに上げたものと・・・同じ・・・ぬいぐるみ・・・。」

病気で亡くなった妹と同じ年頃の少女が、亡くなる少し前に上げたクマのぬいぐるみにそっくりな物を持っていたのだ。

「マリアが・・・呼んだんだ・・・。」

小さく呟くと、慌てて少女を抱き上げた。

「今安全な所に連れて行くからね。」

「あっ・・・うん・・・アタシ・・・ケイト・・・。」

「俺は・・・ロディ・・・・。ケイト、痛いところとか気持ち悪いこと有ったら言うんだよ?」

優しい微笑みは、少女の心にやっと安堵をもたらす。

「あっ・・・雪・・・。」

ケイトの声に空を見上げると、雪がハラハラと舞い落ちてきた。

「そうか・・・今日はクリスマスだったな・・・。メリークリスマス、ケイト。」

「メリークリスマス・・・ロディお兄ちゃん・・・。私、サンタさんにね会ったの。」

「そうか・・・良かったな・・・。」

優しく微笑んで頭を撫でる。

安心したように、ケイトはロディの胸で眠りについた。


「まったく、冷や冷やしたよ、神のご加護の薄い地だから、怪我でもしたらどうするのさ。」

「大丈夫よ、私にはウルトララッキー強運が付いてますから。」

にこにこと微笑む。

どうやら本気でそう思っている様子である。

ロィは呆れたように呟いた。

「ウルトラ脳天気・・・。」

「うふふ・・・さぁスヒードアップよ。」

にこっ、と微笑むが、今度は少し毒が含まれている。

どうやら耳に届いたらしい。

「げっ、お前絶対性格悪いぜ。」

肩を竦め、先を急いだ。


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