はじまり
5年、10年、もっと前の自分と今の自分を比べてみて、「変わったな」って目をキラキラさせて思える人は幸せなんだろうな。
わたし? どうでしょう。たぶん、何も変わってないかも。あの日から。
ちっちゃな頃、若かった、たぶん二十代後半の父と母に連れられバスに乗って、街のデパートのお菓子売り場でお買い物をするのが楽しみだった私。
大きなワゴンに宝石のようなお菓子がいっぱい詰められクルクル回ってたっけ。まるで童話の世界に入り込んだみたいだった。
小さなおててでいっぱい掴み、母が持ってた籠の中にニッコリしながら入れちゃってた。厚かましいけど、とても可愛かった私。
あとは、なぜかしら。ちっちゃな頃はバスが好きだった。たぶん、どこかにお出掛けできるからだったと思う。
それから、バスのウインカーも大好きだった。今みたいな電光じゃなくって、ブーメランみたいなものがピコピコ出るやつ。憶えてます? 同年代のおじ様・おば様。トボケたってダメよ。
言いたくはないんだけど、あれから何十年経ったのかしら。昔からの古い家の長女として育って、早くに母を亡くしたけど、それ以外は不自由なく暮らしてた。
バブルの時にOLになって、大好きな人も現れて。彼がそんなこと好きじゃなかったから、私もそんな彼が大好きだったから、みんなみたいにはしゃいで過ごすことはなかったけれど、もうなんだか順風満帆みたいな。
だけど、突然、すべての音が消えた。すべての色が褪せちゃった。
ほんとうは、小学生の頃からそうなる自分を薄々感じてました。古い家に生まれた女が背負う罪みたいなもの。
どうにか仕事は頑張ってここまで来たけれど、でも、「私の私」はあの時のまま。日付が進められない。