集まりつつあるテロリストたち
捕まえたあの男がどんな犯罪を犯したのか、知りたくなっていた俺は、遠ざかろうとする警官に背後から声をかけた。
「あ。ちょっといいですか?」
均等なリズムを刻んでいた警官の足音が止まった。警官は立ち止まって、俺に振り返った。
「まだ何か?」
笑顔の気配はなく、少し鬱陶しそうな表情だ。
「はい。あいつは何をしたんですか?」
「あいつか」
警官の表情が今度は険しくなった。
それだけ、重大な犯罪者なんだろう。
思わず、俺は生唾を飲み込んで、その言葉の続きを待った。
「あいつは最近、社会を騒がしているテロリストの一人だ」
俺の目が見開いた。
俺は慌てて、辺りに美佳の姿を探した。
俺の視界の範囲に美佳の姿はない。
まだトイレかよ。
そんな思いと共に、美佳がいなくてよかったと言う思いが湧き上がってきた。
昨日のショックを和らげてやろうと、街に連れ出したのに、そこでまたテロリストなんて言葉を聞けば、治りかけていた傷をまた開くことになるじゃないか。
「今日、これで三人目だ。
理由は分からないが、テロリストたちがこの街に集まり始めているらしいんだ」
えっ? まじかよ?
俺の目は点である。そんな俺と警官の視線があった。
まずい! そんな雰囲気に、警官の表情が変わった。
警官は目をそらして、軽く一度咳払いをした。
「今言った事は聞かなかったことにしてくれ。
では」
そう言って、頷いてみせた。
「じゃあ」
警官はそう言って軽く片手を上げて、俺に背を向けた。
俺が呆然としていると、美佳が俺に走り寄ってきた。
「なんだったの?
どうして、翔琉がおまわりさんと話をしていたの?」
少し心配そうだが、テロリストと言う言葉は聞いていなさそうだ。
まずは一安心だ。
「ちょっと、おまわりさんに追われていた犯人を捕まえるのに、協力したんだ」
とりあえず、それだけを言った。
「翔琉は護身術とかも、やってたもんね」
そう言った美佳は嬉しそうだ。
俺の家は裕福な家庭だった。正確には名家である。
そのため、俺は幼少の頃より、お稽古ごとを習わされ続けてきた。
その中に、護身術も含まれていて、その辺の奴らが相手なら、負ける事はない。
「行こうか」
俺はそう言って、歩き始めた。この場にいると、いつ「テロリスト」と言う言葉が美佳の耳に入るかも知れない。
いや、それもそうだが、警官はテロリストたちが、この街に向かってきていると言った。
テロリストたちと遭遇する可能性が上がったと言う事だ。
美佳の目の前で、再び戦闘なんて始まったら、美佳の精神が持たないかも知れない。
とにかく、早く家に帰るに限る。
俺の足が自然と速まった。
「ねぇ、ねぇ。あそこの店で、ケーキ食べて行かない?」
そんな俺の気持ちとは関係なく、美佳が近くの店を指さして言った。
美佳と一緒にいたいと言う気が無いと言うのではないが、俺としてはさっさと戻りたい。
返事に困っている俺の服をつまんで美佳が引っ張った。
テロリストと言う言葉を出さずに、美佳の誘いをうまく拒絶する言葉を見つけられない俺は、そのまま美佳に引きずられるように店に入って行った。