そうだな。頑張れよ と俺は美佳に言った
悔しいが、この子が言った事は事実かも知れない。
このままではいけない。はっきりさせなければ。
そんな事は分かってはいる。
「しかし、平沢くんって、友達いないのかな?
あんな危ない事に女の子を巻き込むなんて。
もっと、男の子の友達を作りなさいよ。
じゃあね」
何も言えないでいる俺に、もう一人の神南はそう言って、軽く手を振った。
この状況を作り上げておいて、しかも、俺にきつい一言だけを残して、自分はさっさと立ち去って行くつもりらしい。
なんて、ひでぇ奴だ。そう思っていると、もう一人の神南は、ふと立ち止まり、神南に目を向けて、神南にも軽く手を振った。
「私が言うのも何だけど、元気でね。
そして、どこかでまた会えたらいいわね」
そう言い終えると、今度は振り向きもせず、すたすたと立ち去って行った。
クローン達もそれに続いて立ち去っていく。
残されたのは俺と神南。そして、美佳。
とんだ爆弾を残して行きやがった。
「ねぇ、翔琉は私の事が一番好きなんだよね?
だって、そう言ってくれたもんね?」
美佳はもう一人の神南の言葉の意味を理解している。
そして、ずっと俺が神南の事を好きなんじゃないかと、不安を抱き続けていたんだろう。
どうしたものか?
あのやろうと、もう一人の神南に怒っても何の解決にもならない。
神南がじっと俺を見つめている。
俺は神南に好きだと言った。
一方、美佳に誤解を与えるような言葉を俺は言った。
ここで、神南を選べば、何だか利用するだけ利用して、美佳を捨てるようで、心が痛む。
だが、本当に好きなのは神南であって、ここで自分の心を偽って、美佳を選べば、神南を傷つけるだけでなく、俺自身も不幸になる気がしてしかたがない。
「はぁー」
俺は決意を固めるため、大きく深呼吸してから、俺の気持ちを言葉にする事にした。
「俺は」
「ちょっと、待って」
神南が俺の言葉を遮った。俺は神南に目を向けた。
これから、何が起こるのか? 俺の緊張が高まった。
「平沢くんは寺下さんに、一番好きだって、そう言ったんでしょ。
だったら、そう言う事なんじゃないの」
「おい、神南」
神南は二股をかけたかのような俺を怒っている? そう感じて、慌てて弁明をしようとしたが、神南の瞳から、怒りは感じられなかった。
「寺下さん」
神南は俺ではなく、神南に話しかけ始めた。
「私もね、平沢くんの事、好きなの。
だからね。私も寺下さんには負けていられないの」
「宣戦布告?」
美佳の問いかけに、神南が一度頷いてから、話を続けた。
「人の気持ちって、残念だけど、いつかは変わってしまうの。
今はだめだとしても、私は寺下さんにいつかは勝って、平沢くんを私のカレシにするから」
「残念だけど、翔琉はいつまで経っても、私のものなんだから。
神南さんなんかに渡さないよーだ」
そう言って、美佳が俺の腕にしがみついてきた。
「じゃあ、私、帰るね」
神南が俺ににこりとかわいい笑みを残して、体をひるがえした。
ふわりと舞うスカート。
神南の事にひかれ始めたあの日の事が甦ってきた。
俺は今、神南に助けられた。
俺は遠ざかって行く神南の姿を黙って、見つめていた。
「翔琉。私たちも帰ろう」
そう言って、美佳は俺の手を握りしめて来た。
「私、神南さんなんかに負けないんだからね」
俺を見つめて言った。
美佳も俺の心が神南に傾いている事を、本当は気づいているんだろう。
「そうだな。頑張れよ」
とりあえず、そう言う事だ。
美佳には美佳のよさがあって、神南には神南のよさがある。
今の俺は神南にひかれているが、神南の言葉の意味は、今しばらく俺たちが引っ付くのに時間を置こうと言う事だろう。
神南がいつまでこのままでいるつもりなのかは分からないが、その間に美佳が俺の気持ちを向ける事ができたなら、それはその時だ。
もちろん、神南だって、黙って俺の気持ちが美佳に傾いていくのを指くわえて見ていないだろうが。
「早く」
美佳に急かされて、俺は歩き始めた。
空にはますます闇が近づいてきていて、連なるお墓の向こうに、灯りはじめた街の明かりが見える。
その明かりの一つ一つに、人々の生活がある。
いつかは俺だって、一つの明かりの下、誰かと一緒に暮らすことになるはず。
それが美佳なのか、神南なのか、もっと別の誰かなのかは分からないが。
ただ、言えることは一つある。
そこにある幸せは、絶対守りたい。
--完--
まず、はじめに。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
完結できましたのも、拙い文章にもかかわらず、読んでくださった皆様のおかげです。
今までの私のSF系から、ちょっと雰囲気を変えてみました。
翔琉と美佳ちゃんに神南ちゃんの関係は先送りと言う終わらし方、いけませんでしたでしょうか?
全般的に感想なんか聞かせていただれば、うれしいです。
最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。




