表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/80

俺の活躍

 地下街の通路で、男は大きくこけて、突っ伏した。

 それはまるで、高校野球の9回2アウトで内野にボールを打ち返してしまったバッターが、一塁ベースに滑り込む姿のようだった。

 だが、おそらく自らの意思で滑り込んだバッターとは違い、ふいに態勢を崩され、激しく前のめりにこけてしまった男の体のそこら中には、擦り傷や打撲ができているはずだ。

 ダメージはそれなりにあるはずで、そこで蹲っても不思議ではない。


 それなのに、男は痛みなどどこにも無いかのように、素早く起き上がろうとしている。

 その視線はひたすら前だけに向けられていて、自分をこかせた俺に一睨みする事も無い。

 男の第一の目的は警官から逃げる事であって、俺と戦う事ではない。

 背後の俺の事など、お構いなしに逃げて行く体勢だ。


 四つん這い状態から、起き上がり両手を通路から離した。

 そして、前傾姿勢のまま逃走を続けようとしている。

 俺は駆け寄ると、重心のかかっている男の足を思いっきり、右足で蹴り飛ばした。

 軸足を蹴り飛ばされた男は再び前のめりになって、通路に突っ伏した。


 どんな犯罪者なのかは知らないが、警察に追われるような奴を逃がす訳にはいかない。


 俺は男の背中に飛び乗り、馬乗りになった。

 大柄な部類に入る俺に乗られ、振り払える者なんか、そういる訳もない。


 「のけ!

 お前にはなんの関係も無いだろう」


 男がわめいた。

 空しい響きだ。

 そんな言葉でのくくらいなら、こんな事をしてはいない。


 「いや、街の治安が良くなくなると、俺も安心できないからねぇ」


 冷たく、そして落ち着いた雰囲気で答えた。

 優劣を男に悟らせ、無駄な抵抗を諦めさせるためだ。


 「俺は何もお前たち一般人に、危害を加える気なんかない」

 「一般人?」


 一般人とそうでない者たち。その境界は何なんだ?

 俺がそう思った時、警官たちが追いついてきた。


 「君、協力、感謝する」


 そう言って、男の両腕を左右から警官たちが掴んだ。


 「離せ、離せ。俺が何をしたと言うんだ!」


 男が叫んでいる。

 訓練を積んでいるであろう警官二人に、左右の腕をねじ上げられては、どうあがいても逃げられるわけがない。

 俺は立ち上がり、男の背中から離れた。

 二人の警官に抱えられ、男は立ち上がらされた。

 服は少し土っぽい色で汚れ、顔や腕にすり傷があった。


 「1536。緊急逮捕する」


 そう言って、警官の一人が男に手錠をかけると、男は警官たちに引っ立てられていった。

 俺の前には、警官たちのリーダー格と思しき40代後半の男が一人残った。

 おもむろに手帳とペンを手に持って、俺にたずねてきた。


 「君、氏名は?」

 「あ。平沢翔琉です」

 「連絡先を教えてくれるかな」

 「あ。はい」


 そう言って、俺は自宅の連絡先を教えた。

 俺と警官の話はそこから始まって、簡単な事情聴取になった。

 とは言え、警官たちの目の前で起きた捕り物劇だ。

 俺だけしか知らない事実なんてものはなく、5分もしない内にそれは終了した。

 その話の中では表彰の話も出てきた。

 なんでも、俺は今回の事で表彰の可能性もあるらしい。

 一市民として当然の協力をしただけで、表彰されると言うのはなんだか恥ずかしい気もする。


 「では。本日はこれで」


 そう言って、警官は俺に背を向けた。

 警官は当然な事なんだろうが、聞きたい事だけ聞いて、立ち去ろうとしている。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ