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隠しているって事はある意味、残酷な場合もあるんだからね とクローン少女は言った

 透き通った青色がほんの少しの澱みと赤みを帯び始め、近づく夕暮れの気配を漂わせた空の下、俺はもう一人の方の神南と人二人がやっと通れるくらいの道を歩いている。


 道の両サイドにはずらりと墓石が並んでいる。

 特に墓参りの時期でもない今は、お花が供えられているお墓はほんの一部だ。

 お参りに来たのがついさっきだったのか、線香が供えられているお墓の横を通り抜けた。

 


 あの日、秘密を守るため俺たちを殺そうとした事、クローンの製造だけでなく、人体実験をしていた事、全てが白日の下にさらされた事で、政府は国民の非難にさらされることとなった。


 そして、俺の想定通り、クローン達をこの国の人間とすると言う要求は叶えられ、神南も、俺の横を歩いているもう一人の神南もこの国の国民となった。

 俺の、神南の、そしてクローン達の願いはかなった。

 もうクローンとして、人体実験に使われたりする事も無い。


 神南は元々の名前である神南佑梨に、もう一人の神南もその名を譲らなかったので、同じく神南佑梨と言う名前になった。


 俺が仕組んだ作戦で目的を達成することはできたが、そこには本当の神南佑梨さんの遺体を損壊してしまうと言う、とんでもない犠牲を払ってしまった。

 神南さんの遺骨は神南家のお墓に納骨された。それだけが、何だか俺の心の救いになっている。


 俺はその事をお詫びするため、いわば共犯者であるもう一人の神南と共に、神南家のお墓を目指していた。


 広大な墓地。

 かなり進んで来た俺たちの前に、何聖地もあろうかと言う広大なお墓が見えてきた。

 俺ともう一人の神南が、そこにたどり着いた。


 今日、誰かがお参りに来たようで、真新しいお花が供えられていて、線香もほんの少しだが残っていて、煙を漂わせていた。


「誰か来たみたいだな」

「神南の家の人じゃない?」


 もう一人の神南はそう言ったかと思うと、そんな事気にしないかのように、俺たちが持ってきたお花を供え足した。


 そう、足したのだ。俺のイメージするお墓とは違い、大きすぎて、俺が奮発したつもりで持ってきたお花も小さく感じられる。

 元あったお花と一緒に供えてもスペース的な問題はない。


 ろうそくを点し、線香を立てた。

 一歩下がって、手を合わせた。


「本当にすみませんでした」


 俺の横でもう一人の神南も手を合わせている。

 申し訳なさと、とんでもない事をしてしまった罪悪感。

 そして、彼女の犠牲が無ければ、代わりに今、隣にいるもう一人の神南が亡くなっていたに違いない。

 生きている人間のために、犠牲になってもらった事への感謝。

 そんな気持ちを入り混じらせながら、彼女に手を合わせた。


「ありがとう」


 一分ほどして、俺はそう言って合わせていた手をおろした。

 横にいるもう一人の神南も合わせていた手を下ろした。


 その頬を涙が伝うのを見た。

 自分のオリジナルだけに、その悲しみが深いのか、罪悪感なのか、それとも戦いの末に手に入れられた幸せへの感謝なのかは分からない。

 思い起こせば、かなり冷徹な事を言ってのけていたこの子に、新たな一面を見た気がした。


「何よ」


そう言って、涙を袖で拭った。


「いや何も。

 で、これから、どうするんだ?」


 俺は涙は見ていない。そんな風に、もう一人の神南から目を逸らして、横を向きながら言った。


「私はいずれは神南の家と関係がある企業で、働くことになったの。

 それまでは、神南の家の者として、学校に通うのよ」


 驚きだ。神南と言えば、大企業グループだ。人生、何が起きるか分からない。いや、これはある種のコネか?

 そう思っている俺に、もう一人の神南が話しかけてきた。


「そんな事より、平沢くんはどうするのよ?」


 そう言ったもう一人の神南の笑顔は、どこか意地悪さが感じられる。


「俺か?」

「平沢くんの将来の事じゃないわよ。いいえ。将来と言えば、将来かな?」


 にんまりとして、小首を傾げてみせたかと思うと、大きな声で言った。


「みなさん、出てきていいわよ」


 何が起きるんだ?

 そう思った時、どこに隠れていたのかと思うほどの人たちが、ぞろぞろと現れた。


 クローンだった人たちだ。

 彼らも、本物の神南さんに手を合わせに来ていたんだ。お墓に供えられていたお花とかも、彼らが供えたに違いない。


 納得しかけた俺は、クローン達ではない二人の人影に気付いた。

 俺の神南と美佳だ。


「神南に、美佳。

 どうして、ここに?」


 目が点になっている俺の横顔を見ながら、もうひとりの神南がうふふと笑った。


「私たちのために、あんな事になってしまった本物の神南佑梨さんをお参りせずになんて、いられなかったの」


 そう言った神南は悲しげな顔つきだ。


「私だって、本物の神南さんには手を合わせずになんか、いられないよぅ」


 美佳は悲しげというより、ちょっと何かにマジか、むきになっている感じだ。


「平沢くん。

 私は知ってるんだから。そろそろはっきりさせたら?

 隠しているって事はある意味、残酷な場合もあるんだからね」


 もう一人の神南はにこりとして、首を傾げてみせた。


 はめられた。

 そんな気分だ。

 もう一人の神南は俺の神南の味方をしたい。

 そう言う事なのか、単に俺への意地悪なのかは分からないが。

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