終わったぞ と俺は言った
ポケットの中から取り出したのは俺のスマホ。
田中たちに目を向ける事もせず、スマホだけに目を向けて、タッチパネルを操作する。
目的のアプリを人差し指でダブルタッチすると、液晶表示がメニュー画面からアプリ画面に切り替わった。
見覚えのある光景が、液晶画面に映し出された。
「映ってる、映ってる」
俺はそう言って、スマホの画面を田中たちに見せつけた。
小さな画面。何が映っているのか、よく分からないだろう。
「持ってる自分のスマホで、TV見てみたら」
俺の言葉に、慌てて田中も高木もスマホを取り出して、操作を始めた。
「チャンネルはどれでもいいからね。全部、乗っ取っちゃってるから」
「乗っ取っている?」
田中が顔をスマホから離して俺を見た。
「あなたたちが育てたクローンたちの中に、サイバー攻撃のプロがいましたよね」
田中は顔色を変えて、スマホに目を戻した。
そこにすでにTVの画面を映し出し終えた高木、が自分のスマホを差しだした。
「これを」
高木が差し出したスマホに目を向けた田中の目が大きく見開いた。
「これを」
高木の声が少し遅れて、スマホのスピーカーから聞こえてきた。
「ヒューマノイドが捉えたここの映像と音声ですよ。
あなたたちがここで喋った事や、さっきの銃撃なんかも、映っちゃっていますよ」
二人が俺に視線を向けた。その表情は少し狼狽気味だ。
「あ、それから、研究所の地下でやっていた人体実験の映像も漏れなく流しますから。
そのために、研究所にはフリージャーナリストで、犯罪現場カメラマンの渡 寧夫さんに来てもらってましたから」
「どう言う事だ」
田中が真っ赤な顔でそう言った時、田中が手にしているスマホが鳴った。
「総理から」
そう呟いて、田中はあわてて電話に出た。
「はい。はい。はい」
何度かそう答えたと思うと、膝を折って崩れ落ちた。
「総理は何と?」
田中の様子から言って、悪い話だと言う事を感じ取った高木の顔色も青い。
「作戦は全て中止だ。クローンたちは解放する。
それだけではない。今回の事件に関して、国民への説明が必要だ。記者会見をしなければならなくなった」
「でしょう。僕が言ったとおりになったでしょう?」
高木が俺に目を向けた。
握りしめた高木の拳が振るえている。
「そんな。我々がしてきた事は何だったと言うんですか」
そう言い終えた高木の顔からは生気が失われていた。
「おい。俺たちが勝ったのか?」
「らしな」
「やったぁ!」
勝利。
それを感じ取ったクローンたちから、歓声が起きた。
俺は数歩だけ田中たちに近寄って、冷たく言いはなった。
「あなたたちが俺たちを殺そうとするからですよ。
あなたたちが俺たちを殺したい理由は、あの研究所の秘密を守りたい。そう言う事でしょ?
だったら、秘密を公開してしまえば、俺たちを殺す理由は無くなる。
自衛のための手段だよ」
田中たちが恨めしそうに俺を見た。
「国はどうなる。俺たちはこの国の威信を守ろうとしたんだ」
「間違った事をしたんだから、その時はごめんなさいでしょ。
威信のために、間違った事を隠し続けようと言うのは、この国には似合いませんよ」
田中は視線を地面に落した。勝負はもうついた。
クローンたちのリーダー格と思われる数人が俺のところに来た。
「君の作戦でうまく言った事は感謝するよ。
ただ、俺たちの神南さんを失った事は残念だ」
「ああ。あれね。あの子は元気だよ」
俺の言葉にクローンたちの目が見開いた。
「今、TV局をハックして、ヒューマノイドが捉えたここの映像を流しているのはあの子だよ。
もちろん、実際にやっているのはサイバー攻撃のプロである君たちの仲間だけどね」
「どう言うことだ?」
クローンたちの言葉に、田中たちも俺に目を向けた。どう言う事なのか、知りたいらしい。
「あー。あの件に関しては、俺も心が痛んでいるんだ。本当の神南佑梨さんにね。
きっと、この人たちはあの子を殺しに来る。そう思ったんだ」
俺が田中たちにちらりと視線を向けて言った。
「そしたら、あの子が本物の神南佑梨さんの遺体が冷凍保存されている事を教えてくれてね」
「あれか」
クローンたちから、そんな声が聞こえた。
クローン達はあの研究所にいただけあって、その存在を知っている者もいたようだ。
「じゃあ。本当に神南さんは無事なんだな」
クローン達の言葉に、俺は頷いた。
「よかったぁ」
神南の声だ。
振り向くと、涙を流しながら、喜んでいる。ひどい目にも遭わされたはずだが、今はそう思えるのだろう。
「とにかくだ。これで我々の身の安全は保障された訳だ」
俺はそう言って、ヒューマノイドの少女の前に向かった。
「終わったぞ」
ヒューマノイドの撮像素子とマイクを通して、この場の状況を見ているであろう、あの少女に言った。
「翔琉ぅ。お疲れ様。怖かったよぅ」
美佳が俺の胸に飛び込んできた。
その顔は半べそ気味だ。
「よくやった」
美佳の頭をなでなでしてやった。
美佳は嬉しそうな表情で、俺を見つめていた。




