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轟いた銃声

 フェンスの向こうは木々が生えていて、その向こうは見えない。

 長く続くフェンスの一部は開閉できるようになっていて、そこが開いていた。


 その開いた先は車一台ほどの未舗装の道路。

 そこに吸い込まれるように、バスが次々に入って行く。


 木々が邪魔していて、ここの全景を見せてはくれない。

 ほどなくして、バスは開けた場所に出た。

 先に到着したバスから、クローン達が降りている。


「さあ、さあ。ここで降りてください」


 バスが停車すると同時に、田中が席から立ち上がって言った。


「ここは?」

「何もないじゃないか?」


 クローンたちは不安げな表情だ。

 身を潜める。そんなための建物など、どこにも見当たらない。

 見える光景は一面野原でもなく、木々が生い茂る場所でもない。

 野原を基本としながら、木々が密集する場所が点在した空間。

 俺にはここがどこか想像はついている。軍の富士演習場だ。


 クローン達を下ろすと、バスは来た道を戻り始めた。


「美佳」


 こんな場所に、俺たちだけを下ろす理由はない。

 まさか俺たちに、ここでテントを張って、しばらく身を潜めておけと言う訳でもあるまい。


 美佳に目くばせをした。

 美佳は頷くと、横にいた少女に囁いた。


「送れる?」


 少女は頷いてみせた。


「えー。クローンの皆さんはちょっとあちらに向かって歩いていただけますか?」


 田中は丁寧な口調で何も無いこの空間の一方向を指さした。

 もちろん、そこにも何かがあると言うものではない。


「俺たちもですか?」

「もちろん、君たちもだよ」


 田中はにこやかだ。


 不安な表情を浮かべながら、歩き始めるクローンたち。

 その後を追って、俺たちも歩き始めた。


「私たちを守って」


 美佳の声は少し震え気味だ。


 振り返ると、田中たちは俺たちから10m以上離れて、ついて来ている。

 その歩みは遅く、その距離はますます広がりそうだ。


 どれくらい歩いただろうか。

 バスから降ろされた場所から、かなり歩いた頃、俺たちと田中たちの間に割って入る者たちがいた。


 密集している木々に身を潜めていた兵士たちだ。

 兵士たちが駆ける足音に、クローン達も立ち止まり、背後を振り返った。

 銃器を構えていて、銃口は明らかに俺たちに向けられている。


 クローンたちの中の戦闘を得意とする者たちが、他のクローンたちの壁となって、兵士たちと対峙を始めた。


 その間にいるのが、俺たちだ。

 最初に銃弾に撃ちぬかれる位置。

 震え気味の美佳の前に俺は立った。


 俺がここに立ったところで、銃弾の前には何の役にも立たない事くらい分かっている。

 それに、こんなことしなくても、美佳は怪我なんかするはずはない。

 そう分かっていても、そうせずにいられない。


 神南の顔にも緊張が浮かんでいる。


「何の真似ですか?」


 そうたずねる俺の声も震えている。


「はっきり、言わしてもらうよ。君たちは知りすぎた。

 クローン達だけを処分するつもりだったんだが、それですまなくなったんだよ。

 しかも、都合のいい事に、神南佑梨は元々人間じゃない。

 そして、三人の女子たちは拉致されて行方不明。

 今、ここにいる事はもちろん、あの研究所にいた事も公にはなっていない。

 そして、平沢くんだったかな、君は両親を失い、君は一人暮らしだ。

 ここで、みんながいなくなっても、問題無しだ」


 田中の顔が醜い笑みに歪んだ。


「クローンを造っていた事、クローンで人体実験をしていた事。

 全てを俺たちを葬る事で、隠そうと言うのか?」

「まあ、そう言う事だ。

 では、死んでくれ」


 田中が手をあげると同時に、銃声が轟いた。

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