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連れ出された俺たち

 他にも残された人間がいた。

 美佳と二人の少女。

 三人も建物から出てきて、俺たちのとこにやって来た。


「翔琉ぅ。もう、これで終わりかな? 私たち、助かったの?」

「ああ。よかったな。無事で」


 そう言って、美佳の頭を撫でてやる。


「君たちがやつらに拉致された子たちだね」


 三人が頷いた。


「君たちも解放してあげたいところだが、もう少し我慢してもらいたい」


 田中の話はそこまでだった。

 本当なら、二人の身元を確かめてもいいところだが、それをしようともしない。


 やはりな。


 俺はそう思った。

 こいつらはこの二人の身元など、興味ないのだ。


 俺の推測が当たっているとしか考えられない。

 クローン達と共に、俺だけでなく、この三人も人知れず闇に葬る気だ。

 死にゆく者たちの名など興味がない。

 あるいは聞かない方がいい。そう言う腹積もりのはずだ。



 やがて、大型バスが何台も敷地の中に入ってきた。


「君たちをここから連れ出すためのバスだ。

 同じ顔の者たちがそろって、公共交通機関と言う訳にはいかんだろう」


 そう言った田中の顔には、こやかな笑みが浮かんでいる。

 敵意はない。そう言う装いか、全てが思い通りと言ううれしさを隠しきれていないのか、どちらかだろう。


「どうせ、彼らを認めるなら、今からでもいいのでは?」


 俺の突っ込みに田中が睨み付けるような視線を俺に送ってきた。


「時と言うものがあるだろう。今は急すぎる。そう言う事だ」


 田中が言い終えた頃、最初に入ってきたバスの入り口が開いた。


「さあ、まずは乗ってくれたまえ」

「翔琉ぅ。大丈夫なのかな?」


 美佳が俺の腕にしがみつき、見上げるようにして、俺を見つめている。

 表情は心配でいっぱいと言う感じだ。


「私たちはどうなると思うの?」


 俺に向けられた神南の言葉は冷たい口調だ。


「さあな。俺の推測が正しいなら、俺たちも連れ行くだろうな」


 次々にバスに乗り込まされていく、クローンたち。

 やがて、最後のクローンが乗り込むと、田中は笑顔で俺たちのところにやって来た。


「神南さん。ご協力を感謝するよ。

 これで、事件は全て解決だ。

 ささ、君たちも乗ってくれたまえ」


 神南の背中に手を回し、バスのドアに誘う田中。


 神南に触れるな!


 と言いたいところだが、ぐっと抑えて、俺はたずねた。


「ここはどうなるんですか?」

「しばらくは閉鎖だな。

 職員たちの健康が確認できれば再開。そんな感じかな」


 田中が俺に振り向いて言った。

 田中と神南がバスのドアにたどり着いた。


「では、長官」


 バスのドアのステップの前で、田中は立ち止まると振り返って、官房長官に視線を向けた。


「うむ。頼んだぞ」


 官房長官の言葉に、田中は一礼して、神南を先に乗り込ませて、その後に続いてバスに乗り込んでいった。

 俺と美佳、そして二人の少女がそれに続いた。

 俺たちの後ろは高木一佐で、これでバスに搭乗するのは終わりのようだ。


 バスの中の座席はほとんどクローン達に埋め尽くされていたが、秩序よく、後ろから詰めて行ったのか、前の方の座席は空いていた。


 運転手のすぐ後ろに田中が座っていて、その横に高木が座った。その後ろには神南が座っていて、横が空いている。


 俺は迷ったが、その通路を挟んだ側の二人席の窓側に腰を下ろした。

 美佳はと言うと、神南の横ではなく、俺の横に座った。

 二人の少女は俺たちの後ろにも二人分の座席が空いていたので、そこに座った。

 俺たちが着席すると、バスは発車した。


「連れ出すため」


 そうこいつらは言っていたが、バスは発車すると、一般道から高速道路に入った。

 長距離の移動。そう考えずにいられない。


「どこに行く気ですか?」


 田中が座席の背もたれから、顔の上部分だけをのぞかせるようにして、俺を見た。


「しばらくは、身を潜めてもらわないとね」

「俺たちもですか?」

「ああ。そうだね。

 君は家族いないんだろ。それに神南さんもそんなもんだし、他の三人は行方不明状態なんだしね」


 言い終えると、にんまりとした笑みを浮かべ、正面に向き直った。


 俺たちを乗せたバスは御殿場インターを降りて、右に進路をとった。


 なるほど。

 俺に一つの場所が思い浮かんだ。

 片側一車線の坂道を大型バスが続いて上って行く。

 やがて、道路に沿ってフェンスが続く場所に出た。

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