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君は何が望みだ? と田中は言った

 田中がゆっくりと周りに視線を移動させた。今この場にいるクローン達をなめまわすように。


「この爆発は、我々がやった訳ではない。

 お前たちの中には爆発物の教育を受けた者がいたはずだ。その技術が使われたんだろう。

 お前たちがやったのと同じだ。

 もっとも、我々としては手間が省けたと言える訳だが」


 田中には勝利に酔った悪魔の笑みが浮かんでいる。

 クローン達の怒りの火に油を注ぐ発言と態度だ。


「神南。クローン達が暴走したら、止めてくれ」


 神南は俺の言葉の意味を理解するまで、ほんの一瞬戸惑ったがすぐに頷いた。


「あそこにいる両手を頭の上に組んでいる人たちが暴れはじめたら、気絶させてください。それと逆に殺されたりしないように守ってあげてください」


 近くのヒューマノイドに神南がそう言うのと、クローンたちの暴発はほぼ同時だった。

 暴発し始めたクローン達に兵士たち銃のトリガーを引こうとしたが、クローンたちは一瞬にして床に倒れ込んでしまった。


「撃つな」 


 神南の言葉を聞きとっていたと思われる指揮官が大声で叫んだ。

 一気にホールの中は冷静さを取り戻した。


 意識のあるクローンたちは自分たちの無力さをかみしめ、涙を流しはじめた。

 一度神南に目を向けた田中と指揮官が、意識を失い倒れているクローンたちの近くに立っている兵士たちに視線を移した。


「縛り上げろ」


 兵士たちが意識を失い倒れているクローン達を縛り上げようと、近づき始めた。


「やめさせろ」


 俺の言葉に、神南が頷いた。


「止めてください」


 田中たちが神南に目を向けて、手を止めた。

 本気かどうかを計っている。そんな感じだ。

 本気なら、兵士たちには手出しはできない。


 指揮官が神南に視線を合わせたまま、右手だけを顔のあたりまで上げて、振り下ろし肩のあたりで一直線に伸びた状態で止めた。

 やれ!

 そう感じ取った兵士たちが、倒れているクローン達に走り寄ろうとした。


「倒れている人たちを守ってあげて!」

「止めろ」


 神南の言葉が終わるかどうかの瞬間に、指揮官が兵士たちに命令した。

 クローン達の前に、ヒューマノイドたちが立ちふさがるのと、兵士たちが立ち止まるのはほぼ同時だった。


 もう少し遅かったら、兵士たちはヒューマノイドに弾き飛ばされていたかも知れない。

 とにかく、衝突は寸前で回避された。


「君は何が望みだ?」


 神南に向けられた田中の視線は、敵意に溢れている。


「クローンたちは助けてあげてくださいと言ったはずです」


 にらみ合う二人の間に沈黙が訪れた。

 その間に、閉じ込められていた職員たちが解放され、続々と姿を現しはじめた。

 その顔には疲労が見て取れる。

 一刻も早く安全な場所に行きたい。そんな彼らは一階でにらみ合う二人の雰囲気にのまれ、立ち止まっている。


「神南、俺たちの縄をほどいてくれ」


 神南が俺に視線を向けた後、近くのヒューマノイドに指示を出した。


「縄で縛られている4人の縄をほどいてあげて」


 ヒューマノイドが俺たちのところにやって来て、まずは美佳のところでしゃがみ込んだ。

 美佳の両手を縛り上げている縄の結び目を手に取った。

 ナイフでばっさりとか、力で引きちぎるとかなら、イメージできていたが、そんな荒っぽい事はしなかった。

 少し見つめたかと思うと、その結び目をほどき始めた。

 人間が作った戦闘のためのロボット。

 そう言う事で、このヒューマノイドの戦闘力と言うものはある程度想定で来ていたが、この手先の器用さ、繊細さは予想外だ。

 俺はあまりのできに目を見張った。

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