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神南が連れてきたヒューマノイド

 クローンたちがいなくなり静まり返った研究所 管理棟ホール。


 常夜灯だけが暗い空間のところどころに暖かい光を灯している。

 ヒューマノイドたちが、外で警戒しているとあって、建物の中は無警戒状態だ。


 常夜灯が点いているだけのほのかな明かりでは、眠気が襲ってくる。それはクローンも同じだ。

 俺たちを監視しているクローンは、俺たちが縄で縛られていると言う安心感からか、うとうとし始めている。


 ずり、ずり。と言うこすれる音がした。

 昼間の空間なら、聞こえないほどの大きさのはずだが、しんと静まり返った夜の空間では聞き取れる大きさだ。


 松岡が神南のところに、お尻と縛られた両足を使って、にじり寄っていた。

 見張りのクローンに目を向けたが、何の反応もしていない。

 爆睡モードに入ったようだ。


 松岡が神南に寄り添った。後ろ手に縛られた神南の手が、松岡のポケットに届く位置だ。

 松岡と神南はここに入る前にそれなりの打ち合わせをしていた。

 その意図は神南にはすぐに分かったのだろう。

 ほのかな明かりの中、神南の頭が頷いたのが見えた。


 薄暗い空間の中、二人で何かごそごそとしている。

 俺の頭の中に浮かび上がるのは、縄で縛られた者達が脱出するためのお約束シーン。

 隠し持っていた刃物で、縄を切る。

 それが、俺の目の前で再現されている。

 はらりと切られた縄が落ち、自由になった手で、仲間の縄を次々に切って行く。

 そう思って見ていたが、二人はごそごそしたままである。


「はぁぁ」


 静まり返った空間に俺の小さなため息が漏れた。

 どっちが、どっちの縄を切ろうとしているのやら。

 俺は二人の場所ににじり寄った。

 美佳も起きていて、俺の事を見ている。薄暗くて、よくは分からないが、美佳の視線は感じる。


「切ろうとしているんだろ?

 俺が切ってやる」


 小声で囁くように言った。


「お前には関係ない。引っ込んでいろ」

「いや、さっさとしないとまずいんじゃね?

 俺なら、すぐにできるんだが」


 拒む松岡に俺が言った。 


「平沢くん。お願い」


 神南は小声でそう言うと、俺の脇腹付近に自分の手を当ててきた。

 その形は拳だ。何かを掴んでいる感じだ。

 俺は頷くと、神南の手に自分の手が合うように体の向きを変えた。

 神南の手からナイフを受け取った。


「松岡のを切ればいいのか?」

「佑梨ちゃんの手に怪我をさせられないだろう」


 俺の問いかけに返してきた松岡の声は、小声ではあったが、不機嫌そうで怒りを含んでいる感じだ。

 面子を潰された。そう感じているんだろう。

 人には得意、不得意があるものだ。できると言っている得意な者に譲る事に何の問題があるやら。


 近づきたくは無かったが、仕方がないので、松岡ににじり寄った。

 素手で松岡の手の位置を確認する。

 左右の手首が縛られている場所を確認し、縄の部分にナイフの刃先を滑り込ませた。

 刃先の向きを確認すると、ゆっくりと前後にスライドさせ、縄を切った。

 ぱさりと切れた縄が床に落ちる音がした。


「貸せ」


 手が自由になった松岡がナイフを持つ俺に手を差し出した。

 ナイフを差し出すと、松岡は自分の足の縄と、神南の手足を縛っている縄を切った。


 手足が自由になった神南が辺りを見渡した。

 見張りのクローンは眠りこけていて、他に人気は無い。

 神南は立ち上がると、着ていたコートを脱いだ。


「やっぱり、あの子は制服だったね」


 そう小声で言った神南がコートの下に着ていたのも制服だった。

 もはや、どちらがどちらか分からない。

 これでヒューマノイドを神南の指揮下におけるはずだが、万全を期さなければならない。次に行われるのが何か、俺は知っている。

 あの少女の監禁だ。


 神南が足音を忍ばせながら、外に向かう。

 閉ざされていたドアが開くと、夜の冷気が中になだれ込んできた。

 目を覚ますのではないかと、クローンに目をやった。

 一度ぶるっと震えるような仕草をしたが、目は閉じたままだ。


 神南は一体のヒューマノイドを連れて戻ってきた。

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