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夜のテレビのニュース

 俺の家はちょっとした広さがある。

 母屋を取り囲むように広がる庭園まで含んだ敷地は、大規模マンションを建てられるほどだ。

 実際、両親が事故で亡くなり、俺が一人で暮らし始めてから、ここにマンションを建てたいから、土地を売ってくれと言う話が何度となく来たくらいだ。


 敷地が広いだけに、母屋の広さも半端じゃない。

 マンションなんかでは何LDKとか言ったりするようだが、この家にいくつの部屋があるのかは、数えて行かなければならないほどだ。俺だって、知りやしない。

 そんな俺の家のほとんどの部屋は使われることもなく、扉が閉じられたままになって久しい。

 あまりの広さに、俺一人では空しいかぎりだ。


 二階にあった俺の部屋も、滅多に行くことが無くなった。

 俺一人の事なんか、30畳程度のリビングと隣接するキッチンの領域だけで十分すぎる。


 リビングに置かれたソファは、今や俺のベッドを兼ねてさえいる。

 そんなソファの肘掛けに頬杖をついて、俺は座っていた。

 耳に届いて来るのは、庭園で秋の虫たちが奏でている夜のコンサートの音と、目の前のTVのスピーカーから流れる無機質な音声だけである。


 そこに新たな音が加わった。

 それほど大きな力ではなく、小刻みに空気を振動させるエネルギー。

 ソファの前にあるテーブルの上で、俺のスマホが振動している。


 目を向けながら、手を伸ばす。

 メールらしい。

 スマホを手に取り、スマホを操作して、メールを確認した。

 美佳からのメールだ。

 開いてみると、明日の念押しのようだ。

 事件のショックは和らいでいる。俺はそう感じた。


 「これなら、大丈夫そうだな」


 誰もいない空間で、一人、口に出してしまった。

 その事に気づいて、自分で美佳よりも自分の方が危ないんじゃないかと思わずにいられない。

 俺がそう思いながら、スマホをテーブルに戻した時、TVで今日の事件のニュースが始まった。


 俺たちの学校の正門が映し出された。

 鉄でできたレールの上をスライドする構造の鉄の扉。

 それがレールから完全に外れ、校庭の内側で横倒しになっている。

 しかも、テロリストたちの車両が衝突したエネルギーを受け止めた鉄の扉の一部は激しく歪んでいた。


 その奥の校庭にはテロリストたちの車や遺体が転がり、血の海が広がっているはずだ。

 だが、それを見せないためか、青いブルーシートで作られた壁が、校庭全体を隠すように設けられていて、正門の奥は風に揺らぐ、青いブルーシートだけが映し出されていた。

 その前に立つレポーター。


 「今日、高校に武装したテロリストたちが逃げ込み、校庭で、治安部隊と銃撃戦になりました」


 もう事件はとっくに終わっていると言うのに、早口で緊迫感たっぷりの口調で、話し始めた。

 レポーターの話を要約とすると、俺の推測通りだった。


 治安組織に追われていたテロリストたちが、前後を治安組織の車両に阻まれ、唯一の逃げ口として、俺たちの学校に逃げ込んだ。

 そこで、両者で銃撃戦が開始され、テロリストたちが制圧された。


 「全く、物騒な世の中だ」


 また、一人で言葉を口に出してしまっていた。

 テレビでは近隣住民へのインタビューが始まっていた。


 「こんな事が近くで起きるなんて、怖いわぁ」


 確かに、こんな事件が近くで起きるなんて想像していなかった。

 だが、再び起きる事はもう無いはずだ。

 こんな地方都市にテロリストたちが狙うものなんてないはずだ。

 きっと、テロリストたちはどこかへ向かう途中で、治安組織に発見されたんだろう。

 俺はそんな予測を立てながら、ニュースを見ていた。

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