テロリストたち=クローンたち と政府側の人間は明かした
田中の背後に立つ警官が語り始めた一昨日、俺が立ち去った校門で起きた事。
校門のところに神南がいた。
その姿は誰かを待っている。俺もそんな風に感じていたが、待っていた相手は美佳だった。
校門から、一人で出てきた美佳をつかまえて、神南は何かを話し始めたらしい。
が、やがて、二人は険悪な雰囲気になって、相手の肩をドンとつき始めた。
「調べでは、教室の中でも二人は険悪だったそうじゃないか。
寺下さんの事を邪魔者と言ったと聞いているが」
警官の話の途中に割って入った田中の顔には真剣な表情ではなく、少し嘲笑気味の笑みが浮かんでいる気がする。
「じゃあ、神南が美佳を拉致したと言うんですか?」
田中は俺の言葉には答えず、右手を軽く上げて、立てた人差し指を振って見せた。
それに応じて、警官が話を続けた。
一色触発と感じた神南を警護していた二人の警官たちが、二人の下に駆け付けて、仲裁に入った。
二人を引き離し、事情を聞き始めたところに、ワンボックスカー2台に分乗したテロリスト達が駆けつけた。
4人をテロリストたち10人ほどが、取り囲んだ。
話がそこに及んだ時、田中が再び言葉をはさんだ。
「君はもう知っているんだろ?」
俺はその言葉に小首を傾げてみせた。
「テロリストと呼ばれている者達が、クローンだって事を」
ああ。そうかぁ。と言う風に頷きながら、手をポンと叩いて見せた。
田中はそんな俺に鋭い視線を向けている。
「それだけじゃない。
君の大切な寺下美佳さんともめていた少女が、君の知っている神南佑梨さんではない事も」
「えっ? 何の事なんですか?」
驚きの表情で、俺は言った。
「僕の所に、佑梨ちゃんから電話がかかってきたんだよ。
君に言われて、ずっと身を潜めているってね」
松岡はどうだ参ったか的な表情で、ふふふんとうそぶいた。
俺はお前より信用されている。そうとでも言いたげだ。
「松岡君の話が真実だとしたらだ。
身を潜めている神南佑梨さんが学校に現れる事などない。
つまり、学校で君の前にいた少女は神南佑梨さんでない事になる。
そして、それを誰よりも一番知っているのは君自身のはずだ」
「いや。何の事だか、分かんないし」
「君がなぜ、少女の事を神南佑梨さんではないと言わなかったのかは、分からないが、私たちは神南佑梨さんを必要としている。
神南佑梨さんを渡してもらおう」
「だから、意味分かんないし」
松岡は俺を睨み付けている。
「なら、話を君の大切な寺下美佳さんが拉致された話に戻そう。
続きを聞かせてやってくれ」
田中はそう言って、軽く手を上げた。
背後の警察官が続きを話しはじめた。
神南のところに駆けつけたテロリストたち。田中の言葉で置き換えれば、神南そっくりの少女の所にクローンたちが駆けつけた。
少女の注意がクローンたちに向かった隙を突いて、警官たちは寺下美佳を逃がした。
当然、警官たちはそのままクローン達を制圧しようとしたが、そもそも多勢に無勢、逆にノックアウトされてしまった。
二人の警官は動けなくなってはいたが、意識はあったらしく、その後の一部始終を見ていた。
クローンたちは少女に「一緒に来てください」と言った。
最初は戸惑っていたものの、何度目かの説得の後、クローンたちの言葉を受け入れ、クローン達が乗ってきていた車に乗って、姿を消した。
「その車が美佳を追いかけて、拉致したと言うのですか?」
早口で言った。
狼狽。それにふさわしい表情と態度を身にまとい。
俺の言葉で、警官の話が中断された。
一瞬の沈黙の後、答えたのはやはり田中だった。
「まあ、それは正しいが、完全に正しい訳ではない」
田中の言葉が終わると、警察官は話を続けた。




