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他の人に頼めばいいじゃないと、美佳は絶叫した

 「おやつ、食べようよ」


 俺は美佳のベッドから立ち上がって、机に向かった。

 机の上には美味しそうなシュークリームと紅茶が乗ったトレーが置かれていた。


 「美味しそうなシュークリームだ。

 いただきます」


 そう言って、シュークリームを手に取って、かぶりついた。

 そんな俺に美佳は少しふくれっ面を向けている。

 俺が避けたのを感じたのか、ムードの分からん奴と思っているのかは分からないが、危険な雰囲気だ。


 「ほら、美佳も食べたら?」


 別のシュークリームを手に取って、美佳に差し出した。

 ベッドの上に座ったまま美佳は手を伸ばして、俺の手からシュークリームを受け取って、一口かじった。

 少しふくれっ面っぽかった美佳の表情が、大きく緩んだ。

 甘いものには勝てない。そんな感じだ。


 「でさぁ。美佳にお願いがあるんだ」


 俺は再び美佳の横に、一人分ほどの隙間を作って座った。


 「はい? 話って、お願いなの?

 なぁんだぁ。つまんない。

 で、何?」

 「まず、俺、最初に美佳に謝るよ」


 俺は体をよじって、美佳に向けながら頭を下げた。

 美佳は何事? と言う不思議そうな顔を俺に向けている。


 「いつだったか、美佳がテロリストたちはクローンだって言う噂があるって、教えてくれただろ?

 その時、俺は美佳の事、ちょっと馬鹿にしちゃったけど、あれは本当だった。

 ごめん」

 「なぁんだ。そんな事。気にしなくていいって。

 勉強は翔琉くんの方が詳しいけど、世の中の事は私の方が詳しいって事だね」


 美佳の表情はちょっとお得意げだ。

 それは、ふふふんと言うより、えへんだ。

 ふふふんは人を見下している感じだが、えへんは自慢している感じで、俺的にはこっちの方が好きだ。


 「で、だなぁ。そのクローンたちを救うために、協力してほしいんだ」

 「はい? マジな話なの?」

 「ああ。マジだ」


 そう言ってから、俺は全ての話を語った。

 クローンたちの目的。

 ヒューマノイドの存在。

 不思議そうな顔で、美佳は聞いていた。信じ切っていない。そんな感じだった。

 そして、最後に神南を助けたい。そのために協力して欲しいと言う事を告げた時、美佳は表情を一気に曇らせながら、座っていたベッドから立ち上がった。


 「何を言ってるのよ。

 そんな作り話して、何の意味があるのよ?」


 美佳は信じていないと言い切った。それは正常な反応かも知れない。こんな話、信じられる訳はない。俺が逆だったら、信じたりはしないだろう。


 「でも、クローンの存在を俺に言ったのは、美佳じゃないか。

 さっき、俺はその事で謝ったじゃないか」

 「それはそうかも知れないけど、あんな事がマジな話だなんて、本当は私も信じてなんかないわよ」

 「いや。これは本当の話なんだ」


 俺は立ち上がり、両手を美佳の両肩においた。

 眼差しは、これ以上にはないほどの真剣さで。


 「だとしても、私は嫌よ。

 そんな事、他の人に頼めばいいじゃない。

 どうして、私がクローンや神南さんのために、協力しなきゃいけないのよ」


 それは言葉と言うより、絶叫に近い。

 美佳が俺の手を振り払った。


 「ばか。翔琉のばか」


 美佳は俺をを押しのけると、部屋を飛び出した。


 「待ってくれ、美佳」


 慌てて美佳を追った。

 どたどたとけたたましい音が階段に広がる。

 何ごとかと美佳のお母さんが、リビングから出てきた。

 玄関に先にたどり着いた美佳が、ドアを開けた。


 「美佳、翔琉くん。どうしたの?」


 美佳はお母さんの声を無視して、そのまま出て行った。

 俺は美佳のお母さんとは他人である。全く無視する訳にはいかない。


 「すみません。ちょっと」


 振り返って、少し頭を下げてから、玄関を目指した。


 美佳の家を出て、道路に出た。

 左にも右にも美佳の姿は見えない。


 近くの路地かどこかに入ったのか?

 右か、左か?

 これが大きな問題だ。

 確証もないまま、右側に向かって、俺は駆け出した。


 隠れられそうな場所。

 通れそうな路地。

 俺は目を向けながら走った。


 俺と美佳の足を考えれば、見つけられていいはずなのに、見つからないのは、美佳は右側ではなく、左側に向かったか、どこかに隠れているかしかない。


 俺はあたりを探してみたが、見つからない。

 完全に逃げられたようだ。

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