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まだ分かっていない? とクローン少女は言った

 クローン達に勝利をもたらす鍵はヒューマノイドにある。

 つまり、こう着状態と言ってもいい研究所の状況を一気に進展させることができるのは、ヒューマノイドを指揮できるこの少女なのだ。

 だから、クローンたちはこの少女を探し求めていた。

 そして、クローンたちは神南の事をこの少女だと勘違いし、神南に頭を下げて、研究所に連れて行こうとしていた。


 そして、逆も真なり。

 研究所の解放は軍の力をもってしても為しえない。それにはヒューマノイドを指揮できる人物の協力が欠かせない。

 政府側はヒューマノイドを指揮できるのは神南だと考えたに違いない。

 それはクローンたちが神南を探し求めている事に気づき、そこからたどり着いた結論なんだろう。


 政府側も神南が必要なんだ。

 この少女の言っている事は正しい。


 神南を研究所に連れて行った時、聞いた言葉「見ろ。やっぱりだ」。

 あれはヒューマノイドたちが神南に従う。それを確信した言葉だったに違いない。

 だとすると、100%の確信もないまま、神南を危険にさらした事になる。

 何と言う事だ。あまりに非道ではないか。

 神南がクローンだからなのか?

 いや、松岡誠也もいた事を考えれば、この国の人間の命でさえ賭けに使った事になる。

 もしかすると、この事件の解決のためにはいかなる犠牲をも厭わないつもりなのかも知れない。

 その考えにたどり着いた時、眉間にしわが寄ったのを感じた。


 「分かってくれたかな? 平沢くん」


 どこにも焦点が合っていなかった俺の視線が、声の主である少女に向かった。

 今度はとろけんばかりの笑顔を浮かべている。


 「分かってくれたところで、私の話を続けよっか」


 少女は話を続けた。

 少女は駅で偶然、俺と出会った。

 下校途中、私服姿で出会った少女。神南だと思っていたが、この少女だったらしい。

 俺が神南の事を知っている。そう知った少女は俺の事を隣にいた少女につけさせたらしい。


 「その少女は誰なんだ?

 その子も」


 クローン? そう聞きたかったが、もし違ったら、傷つけてしまいそうで、そこから言葉が出なかった。


 「ヒューマノイドに決まってるじゃない」


 少女はそう言って、けらけらと笑い始めた。

 少女の話では、自分の身を守るため、三体のヒューマノイドと共に研究所を出たらしい。その内の一体だと言う事だ。


 神南をクローン達が囲み、駆けつけた警官と乱戦になった最中、このヒューマノイドが神南を拉致したと言うのだ。

 そこまで聞いて、俺の思考回路は一瞬乱れた。


 その姿も行動も気づかせず、一瞬にして俺たちの視界から、人間を拉致するほどの能力があるのか?

 あの日以降、俺が接していた神南は神南じゃなかったと言う事なのか?


 「もしかして、まだ分かっていない?」


 黙り込んでいる俺に少女はそう言ってから、話を続けた。


 「あの日からあと平沢くんが会っていたのは、そこの神南佑梨ではなくて、全て私なのよ。

 松岡の家から出て行く時に出会ったのも、学校で会ったのも」

 「じゃあ、神南は、神南はその間、どうしていたんだ?」

 「そこの神南さんは、自分のワンルームで監禁されていたんじゃない。この私に」


 神南はずっと監禁されていた?

 だから、病院で見た神南はやつれていたんだ。


 俺は神南に目を向けた。

 犯人はこの少女なのか?

 俺はその事を神南に確かめたかった。そんな俺の気持ちを神南は感じたようだ。


 「私、ずっと目隠しされていたの。でも、目隠しを外された時に、あの子はいたわ」


 そう言って、少女の横に立っているヒューマノイドを指さした。

 許せない。

 神南をそんな目に遭わせたこの少女を。

 そして、そんな事に気づきもせず、神南だと信じて接していた俺自身が。

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