一緒に帰るか?
全校生徒がそろうと、髪の毛が薄く、小太り気味の校長が話を始めた。
「全校生徒に集まってもらった理由は、分かっていると思いますが」
普段の全校生徒の集会で話す声に比べ、少し早口で上ずっている感じだ。
そして、話も組み立てが少しずれていて、理解しづらかった。
校長も心の準備も、話す内容の整理も不十分なようだ。
そんな訳で事件の事については、何も分からなかったが、今日は今から一斉下校し、明日は休校、学校が再開される日は学級連絡網で知らせると言うことだった。
校長の話が終わり、解散することになった。
解散となれば、私語があふれ出すのが、いつもの事だが今日の私語はいつもより激しい感じだ。しかも、全体のトーンが低い。女子の声が少ないみたいだ。
向きを反転させ、体育館の出口を目指す生徒たち。
最前列にいた俺は、出口に向かう生徒たちの最後尾だ。クラスメートたちの後姿を見つめながら、体育館の出口を目指す。
俺の前を歩いていた生徒たちが、何か障害物をよけるかのように、その先で蛇行している。何だ?
そう思っていると、美佳の姿があった。
向きを反転させることもせず、正面を向いたまま、両手で鞄を持って立っていた。
美佳の家は俺の家の近くだ。不安いっぱいで、一緒に帰りたいんだろう。
「一緒に帰るか?」
俺のその言葉に、思いっきり嬉しそうな顔で美佳が頷いた。
俺がその横に来ると、美佳も向きを変えて、俺の横を寄りかかって歩いて行く。
まるで、恋人同士じゃないか。
誤解されて、美佳は困らないのか? とは思うが、美佳にしても、誤解以上に、さっきの事件の方が怖いんだろう。
そう思うと、俺も美佳から離れて歩けやしない。
俺たちはそのまま体育館を出た。
校舎の正門側に通じる出口は完全封鎖されている。
いや、封鎖されていなくても、そこを通って惨劇現場の校庭を抜けて帰ろうなんて奴はいないだろう。
体育館から学校の裏門を目指して、生徒たちの列ができている。
俺たちは最後尾に近いが、急ぐ理由もないし、へたなタイミングで駅にたどり着くと、この学校の生徒たちで混雑しているだろう。
そう考えると、俺よりはるかに足の遅い美佳のペースで、駅まで向かい、大半の生徒たちが電車に乗ってしまった頃合いで、駅に着く。それがベストな解だと判断した。
まだまだ強い日差しが俺たちに降り注ぐ中、ゆっくりと裏門を目指して歩いて行く。
前を歩いている生徒たちとの距離が開いて行くばかりか、次々に俺たちを他の生徒たちが追い越して行った。
そして、正真正銘、俺たちは最後尾となった。
半袖シャツからむき出しの俺の腕を、じりじりと太陽が焼いて行く。
背中にも汗がびっしょりだ。
「それにしても、暑すぎね?」
「だね」
俺の問いかけに答えた美佳の声は、普段より小さい。
俺には女の子の気持ちは分からないが、目の前での銃撃戦と人の死と言うものは、心をかなり傷つけたようだ。
「なぁ。明日、カラオケにでも行ってさ、ぱぁっと盛り上がらないか?」
俺は美佳を元気づけたい気分だ。
美佳は俺に顔を向けると、嬉しそうな顔で頷いて見せた。
美佳の心を襲ったあの事件の衝撃に、俺は勝った。
そんな気分で、俺もにこりとした。