やつらにはその子が必要なのよ、とクローン少女は言った
クローン達の政府との闘争。その話はクローン達が語り始めた。
クローンたちは研究所を占拠し、政府に対し自分たちを人間として扱うように交渉を始めた。
それに対する政府の回答はすぐに出された。
研究所の力による制圧。
だが、それは瞬く間に失敗に終わった。
少女の指示で、研究所を守るように言われていたヒューマノイドたちが、研究所の中に侵入してきた警官たちを抹殺したらしい。
力による解決。
それに固執する政府は続いて軍を投入したが、結果は同じだったらしい。
「それがあの人たちだったのね」
クローンたちの話がそこまで及んだ時、神南が怯え気味に話しはじめた。
神南が入った研究所。そこで見たのは、むごたらしいその戦いの跡だった。
研究所の敷地の中には、おびただしい人の遺体が放置されたままだったらしい。それも、迷彩服や濃紺の制服を着た。
クローン達が言う警察や兵士たちだ。
遺体の回収すら行えないのは敷地の中に入っただけで、ヒューマノイドが容赦のない攻撃をしかけてくるかららしい。
あの時、神南が「私たちは呼ばれたので、ここに来ました。私たちに危害を加えないでください」と言っていなければ、神南たちもその兵士たちのように殺されていたかも知れないじゃないか。
待て。神南たちを研究所に入れたあいつらは、本当に神南たちが安全だと言う確信があったのか?
それとも、確信もないまま実験に神南たちを使ったのか?
その疑問に突き当たり、小首を傾げた。
「なるほどね。あんたは研究所の中に入ったって訳だ。
どこまで気づいているのかは分からないけど、警察や軍もばかじゃないようね」
話がそこまで行った時だった。
新たな人の気配を感じた。庭のあたりを大勢の人間が駆けている。そんな感じだ。
「追手か?」
クローンたちが素早く反応し、窓際の壁などに身を寄せて、外を警戒し始めた。
「相手が警察とかだったら、今の話からして、たぶん私を人質に取ったと言えば、時間を稼げるわよ」
クローン少女はそう言いながら、クローンたちの所に歩んで行った。
「しかし」
クローンたちは戸惑いを見せている。
「やつらを片づけるのは簡単だけど、後々面倒だからね。
それとその子は外から見えないようにしておいて」
これが神南と同じ遺伝子を持つ者の言葉なのだろうか?
そう感じずにいられないほど、冷徹な感じだ。
「平沢くんって、私の事好いてくれている?」
あの時の少女と同じとは思えない。
しかも、片づけるのが簡単とはどう言う事なのか?
クローンのリーダーと思われる男が、クローン少女の背後に回ると、少女の側頭部に銃口を当て、窓際に近寄って行った。
俺は外から見られないよう、神南をキッチンの片隅に連れて行った。
壁に身を寄せていた男たちが、閉じていたカーテンを開くと、部屋の明かりが庭に潜む者たちの姿を浮かび上がらせた。
「下がれ。一歩でもここに踏み込んでみろ。こいつの命はないからな」
「助けてぇ」
悲壮な叫び声が響いた。
クローンたちはカーテンを再び閉じた。
「これでしばらくは話ができるはずよ」
再びこちらを向いた少女は冷たい表情だった。神南の硬い表情とはまた違う感じだ。
「どうして、そんな事が言えるんだ?」
俺の問いに、少女は冷たい表情のまま語り始めた。
「今の人質に取られたのは誰だと思っていると思う?」
「神南だろ?」
「そうよ。やつらにはその子が必要なのよ。
そして、私がこの大きすぎる家に潜んでいたとは知らないのよ」
俺はようやく全てを理解した。
ヒューマノイドの話を聞いた時に気付かないとは、俺は抜けている。




