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もう一人の神南

 クローン達を睨みつけながら見渡した。

 クローン達の表情には、俺に対する敵意がありありと見て取れる。


 「お前には聞いていない」

 「神南が何と言おうと、俺は神南を渡さない」


 にらみ合いと言う沈黙が、言葉の代わりに部屋の中を包んだ。

 

 「私は」


 沈黙を打ち破る声は、俺の背後からした。俺は慌てて振り返ると、神南の両肩に手を置いて叫んだ。


 「だめだ。行ってはいけない。君を危険な目に遭わすわけにはいかない」

 「でも」


 神南はそこで、言葉を止めた。その表情は納得したと言う風には見えない。

 俺には神南を守れない。神南は今ここで何を言おうと、そう言う意味になってしまうと感じて言葉を止めた感じだ。


 俺のプライド。

 そこを気遣ってくれたようだが、全くそのとおりだ。

 俺は神南をここから逃がす術をいまだに思いついていない。

 警察が踏み込んでくるまでの時間稼ぎだって、十分な時間を稼げる自信はない。


 神南が言葉を止めたので、一度神南に頷いてから、再び神南に背を向けて、男たちに向かい合った。


 「俺たちには時間がない。お前を排除する」


 そう言った男は横の男に目くばせをした。

 どうやら、こいつがリーダーらしい。リーダーの言葉に、横のその男は頷くと、ゆっくりと視線を俺に向けた。余裕があるじゃないか。


 俺を襲ってくる。とすれば、ここに立っていたら俺の背後の神南を巻き込んでしまうかも知れない。そう感じた俺は飛び出した。


 俺の顔面めがけて殴り掛かって来る男の右拳をかわしながら、逆に右こぶしをアッパーでねじ込んだ。

 男は紙一重で交わすと腕をからませて、俺の腕をねじ上げた。

 完全に形勢不利。

 こんな時は、ちょっと汚い手だって、使わざるを得ない。

 俺には自分の大切なものを守ると言う目的があるんだから。


 俺は男のつま先を思いっきり、かかとで踏みつけた。

 痛みで一瞬、男の腕の力が緩んだ。

 その隙をついて、体全ての力を使って、男の腕から逃れた。


 「面倒だ。加勢しろ」


 リーダーの言葉が聞こえた。

 誰が一番最初に襲い掛かって来るのか?

 俺は視界に入る全ての動くものに神経を分散させて、動きを探ろうとした。


 「待ちなさい」


 俺の神経を乱す声が聞こえた。

 凛とした、そしてなぜだか威厳さえ感じさせる。

 その透き通るような声は神南の声だ。


 だが、声がした方向は意外な方向だ。

 俺は声の方向である廊下に目を向けた。


 そこにいたのは制服姿の神南と、あの見知らぬ少女だ。さっきまで、俺の横で私服で料理をしていた神南が、どうして?

 俺は制服姿の神南に目が釘付けで、呆然としてしまった。だが、それはクローン達もだった。


 クローン達の視線が、行ったり来たりしている事に気付いた俺は背後を振り返った。

 そこには大きく目を見開き、驚いた表情で固まってしまったもう一人の神南がいた。

 この神南こそ、俺と一緒に料理をしていた神南だ。服装がさっきと同じ私服だ。


 「双子?」


 そう言った後で、俺は大きく首を横に振った。

 神南はクローンだ。

 神南佑梨のクローンは一体ではなかったと言う事だ。

 しかも、神南の驚いた表情から言って、神南はこの事を知らなかったようだ。


 「あー。君は?」


 俺はクローンたちの存在は無いかのように、神南そっくりの少女にたずねた。


 「平沢くんって、私の事好いてくれている?」


 その少女はそう答えた。その言葉、聞き覚えがある。学校で俺が神南から聞いた言葉だ。

ようやく、二人の神南ちゃんが同じ場所に現れました。

今までの神南ちゃん。どの神南ちゃんが、どの神南ちゃんだったんでしょうか。

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