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別の意味で、ここも危なくない? と神南は言った。

 門の横に掲げられた年代を感じさせる大きな木の表札。

 黒っぽくなってきている木の色と逆に薄くなってきている字の色。

 字の部分が彫られていなければ、「平沢」と読み取れないかも知れない。


 「ああ。旅館っぽいけど、旅館じゃない。

 と言うか、俺んち」

 「どう言う事?」


 神南が呆れ顔を俺に向けている。


 「変な意味で、連れて来た訳じゃない。この家には部屋がたくさんあるんだ」


 そう言って鍵を開けて、家の門を押した。そう、ドアではない。門だ。少し軋む重い音を立てて、門が開いた。


 「ほら」

 「あのう。どうして、こんな事になってんのかなぁ?」


 腕組みした神南はあきれ顔から、少し俺を叱責する表情になっている。


 「いや、あの部屋は危ないし」

 「ここも危なくない? 別の意味でだけど」

 「いや。何もしないし」

 「それって、男の人が言う常套句なんじゃないの?」

 「いや、まじ、何もしないし」

 「松岡の家に戻ろうかなぁ」

 「いや、それは嫌なんだ。あいつのいる家には戻ってもらいたくない」

 「はぁぁ」


 神南が大きなため息をついた。


 「平沢君の気持ちは分かったわ。本当に何かしたら、許さないんだからね」

 「もちろんだよ。さあ、どうぞ」


 俺は神南を俺の家に招き入れた。

 もちろん、手を出したりなんかしない。つもりだ。


 神南が一人暮らすに必要な部屋なら、俺の家にはいくらでもある。

 好きなところを使ってくれればいいと言ったので、神南は二階の階段を上がったあたりの部屋を使う事にした。俺の本当の部屋の近くだ。

 同じ屋根の下に神南がいる。そう思っただけで、なんだかうれしいじゃないか。


 しかもだ、今、俺は神南と一緒にキッチンに並んで立っていた。

 晩御飯の用意だ。

 俺は一人暮らしを始めてから、自分で料理をするようになった。

 神南も、松岡の家で、時々料理を手伝っていたらしい。

 二人で作る料理は何だか楽しいじゃないか。


 二人で作っていると、と言うからではなく、楽しい時間はすぐに過ぎてしまう。そんな感じで、あっという間に調理を終えてしまった。


 「さてと、食べますか」


 そう言って、食器を並べ始めた時だった。

 大勢の人の気配を感じた。

 何人もの足音が廊下の向こうから、ここに向かって近づいてきた。


 俺は慌てて、神南の手を取ると、部屋の片隅に連れて行った。

 それとほぼ同時にリビングダイニングと廊下を隔てているドアが開いた。


 見覚えのある顔の男たち。

 警察に見せられた写真の男たちだ。しかも、同じ顔の男も何人か混じっている。

 双子、三つ子。なんて思う訳もない。

 やっぱ、クローン。

 現実として、完全に認識した瞬間だ。


 俺は神南を背後に回すと、入ってきた男たち全員を睨み付けながら見渡した。10人以上の人数だ。


 この男たちの強さは知っている。

 勝てそうにはない。

 どうやって、神南を逃がすか。いや、警察はいたはずだ。

 あの時と同じように、人数が集まるのを待っているのかも知れない。

 だとしたら、時間を稼ぐ。それ以外に道はない。


 「神南さん。私たちと一緒に」

 「だめだ。神南は渡さない」


 俺は大声で叫んで、神南を俺の背後に回し、両手を大きく横に広げた。

 神南は行かせない!

 俺の決意だ。

第6話で、翔琉くんの家の説明していましたけど、それはここにつながっていました。

でも、やっぱりあそこでは要らなかったかな? とも思っています。

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