神南を疑う男たち
しばらくすると、興奮気味の男の声が聞こえてきた。
さっきのスーツ姿の男の声に違いない。
「見ろ。やっぱりだ」
何が、やっぱりなのか?
興奮するほどの理由は何なのか?
そんな事を考えている俺に、信じられない言葉が聞こえてきた。
「しかし、問題は本当は奴らの仲間と言う事がないのかどうかだ」
「私の推測ではその可能性は無いと考えている。何しろ、目隠しされ、縛られて監禁されていたんだからな。
少なくとも、こっちの方に限っての話だが」
男たちの会話の全ての意味は理解できなかったが、神南がクローンたちの仲間と言う可能性を疑われている事を知った。
男たちは神南がクローンだと言う事を知っているのかも知れない。
いや、クローンかどうかはともかく、この国の人間でないことくらい、調べる気になればすぐに分かる事なのだ。
神南がこの国の人間でない事は知っているに違いない。
とすれば、これまでの状況から考えれば、神南がひっそりと社会に潜伏していたクローンと考えるのは当然かも知れない。
神南がクローンだから、クローン達の味方だと言うのは、全くの偏見である。
神南はクローンたちの仲間なんかの訳がない。
そう思った俺に一瞬、嫌な考えがよぎった。
神南を襲ったクローンたちは、やけに神南に低姿勢だった。
あれはどうしてなのか?
それは神南がクローン達とつながりがあったからではないのか?
俺はすぐに激しく首を数回横に振った。
俺の両脇から、俺の腕をつかんでいる兵士たちが、そんな俺の仕草に怪訝な視線を向けた。
俺の頭中から、嫌な想像は零れ落ちて、消えてなくなった。
神南は監禁されて、縛られていた。
仲間な訳がないじゃないか。
俺は神南を信じる。
たとえ、世界中のみんなが神南を疑ったとしても。
俺は神南を疑うブルーシートの奥の男たちに少し苛立ちを覚えた。
「離せ」
そのいら立ちから、強い口調で俺の両腕を左右から掴んでいる兵士たちにそう言って、体を激しくよじった。
だが、さすがに訓練された兵たちだけあって、そんな事で振りほどけやしない。
ブルーシートが開いて、男たちが出てきた。
男たちは俺の方に目を向けたかと思うと、兵士たちに言った。
「そいつをそのまま拘束していろ」
「はっ」
そんな応答を返して、俺を今まで以上にがっしりと抱え込んだ。
男たちはもう俺に興味ないかのように、道路に止めてある濃緑色の大きな車の中に入って行った。
俺としては男二人に抱えられたままで、時間は持て余すわ、気分的に滅入るわで、大変な時間を過ごした。
途中、兵士たちに話しかけてみたが、さすがこの国の兵士は優秀だ。
全く俺の言葉など聞こえていないかのように、無視していた。
真面目なのも、この場合は困りものだ。
どれくらいの時間が過ぎただろう。夜、ベッドの中で羊を数えていたら、何千匹もの羊が頭の中に湧いて出てきていたくらいの頃、さっきの二人の男たちが車から飛び出して、ブルーシートの中に飛び込んで行った。
神南たちに何かあった? と言う気もしないではない。
「何かあったんですかね?」
無駄と知りつつ聞いてみた。
やはり無駄だった。
兵士たちは俺に顔を向ける事もなく、俺を掴んだまま動かなかった。




