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美佳を敵に回してでも??

 神南がクローンとはどう言う事だ?

 クローンって、さっきから話に出ているクローン?

 マジ? 嘘? 何かのたとえ? 冗談?

 俺は神南の言葉を日本語のまま意味を理解することを避けようとしていた。


 神南は俺の反応を確かめようと、じっと俺を見つめている。何かを返さない訳にはいかない。とりあえず、日本語そのまま返して、確認してみる事にした。


 「あー。その、本物の神南は別にいて、神南はクローンだってこと?」


 ちょっと、日本語的にこんがらがった言葉だ。言った後で、そう思ったが、神南はこくりと頷いてみせた。


 「一つだけ、教えてもらっていい?」


 俺の言葉に神南が頷いた。頷いた瞬間に涙でいっぱいの瞳から、涙があふれて頬を伝った。その涙は枯れそうにない。


 それはマジの話なのか? そう聞きたかったが、神南を見ていれば、そんな事は聞く必要もない。いや、聞けやしない。

 だから、俺の「クローンは人間だ」に対する言葉にありがとうだったんだ。


 「いや、いいや」


 一度、言葉を切って、俺は続けた。


 「たとえ、神南がいや、俺の目の前の神南が本物の神南でなくて、クローンだったとしても、俺は目の前にいる神南が好きだと言う気持ちに変わりはない。

 俺はずっと君の味方だ。ありふれた言葉だけど、たとえ世界を敵に回しても」

 「本当に?」


 神南の言葉は弱々しい。まだ、俺の言葉を信じきれていない感じだ。


 「もちろんだ」


 生まれて今までの中でも、最上級の真面目顔で頷いてみせた。


 「ありがとう。ありがとう」


 何度もそう言う神南を俺は再び抱きしめた。

 それから、神南は自分が知っている事を話してくれた。




 この国には神南電機と言う巨大エレクトロニクスメーカーが存在している。その傘下の企業はエレクトロニクスに止まらず、広範な業態に及んでいる。

 この企業の創業者は神南徳秀(かんなんのりひで)で、今の神南電機社長 神南徳成(かんなんのりしげ)の曽祖父である。この徳成は神南家の二男であり、逝去した長男 徳幸(のりゆき)の後を継いで社長に就任した。

 徳幸には一人娘 佑梨(ゆり)がいたが、二十歳前に事故に遭い死亡した。

 この佑梨こそが、俺の目の前にいる神南のオリジナルと言う事だった。


 徳幸は亡くなった一人娘を忘れられず、佑梨のクローンを造った。もちろん、自分の娘として育てるためだったらしいが、造られた佑梨のクローンを引き取りに行く途中、妻と共に事故に遭い、亡くなってしまった。


 引き取り手を失った佑梨のクローンは、神南徳幸と親交があった松岡英俊が引き取って育てたと言う事だった。

 神南は、この話を自分を拉致した犯人から聞かされたらしい。


 最初は信じようとしなかった神南だったが、犯人はつけさせていた目隠しを外し、神南の目の前で、この国の住民データを管理するサーバーに接続し、神南佑梨の名前が無い事、オリジナルの神南佑梨の死亡による削除が行われた履歴を見せつけたらしい。


 神南に確かめてはいないが、俺が思うに、神南が拉致されて解放されるまでの時間はほんの少しの間でしかない。つまり、拉致してすぐにそれを見せつけたと言うことか?

 一体、何のために、そんな事をする必要があると言うのか?

 しかもだ。そんなものを見せつけ、傷心の神南に、「結局、あなたもクローンのままだったのね。使えないわね」と言ったらしい。


 犯人たちの悪意に満ちた行為に、俺は怒りに震え、両手の拳をきつく握りしめた。


 その犯人たちは松岡の父親がいる研究所を占拠している者たちの仲間だと、警察は神南に告げたらしい。

 警察はさらにこうも告げた。

 研究所を占拠している者たちに、世間を騒がせているテロリストたち。表向きは彼らはテロリストとなっているが、本当は武装したクローンの集団である。と。


 自分がクローンだと聞かされた段階ではまだ半信半疑だった神南も、警察から聞かされたクローンの話で、自分がクローンだと言う疑いを深めたようだった。


 どうして、そこをクローン達が占拠しているのか?

 クローン達が起こしている事件の目的は?

 など、事件の真相に迫る鍵に関しては、神南は聞かされていないらしい。



 話し終えた神南に、俺は力強く頷いてみせた。


 「話は分かった。

 その研究所にはやっぱ俺も行く。いや、行かなければならない。

 神南を守るのは俺の仕事だ」


 じっと神南を見つめる俺。俺をじっと見つめる神南。ほんの少し沈黙が続いた。そんな沈黙を破るかのように、神南がぽそりと言った。


 「寺下さんを敵に回しても?」

 「な、な、何で、美佳が出て来るんだよ?」


 俺は美佳が何と言っても、神南についてく。

 だが、こんな場面で、その名を出すのは反則だろ?

 俺は少したじろいだ。


 「ごめんね。嘘よ。嘘。ちょっと、平沢君をからかってみたくなっただけ」

 

 神南は、右腕で頬を伝っていた涙をぬぐい、少し笑みを浮かべた。


 神南に少し元気が戻ったのを感じた。俺が力になれるなら、どんな事でもする。

 俺は神南の笑顔を見ながら、硬くそう決意した。

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